「それは、この死神列車に乗車したそのときから、七海さんの身体が過去の世界に順応できるように勝手になっているんです」

「か、勝手に……?」

思わず目を見開いてしまった私。少しだけ声が大きかったことにすぐに気が付き、慌てて掌で口を覆う。

「過去に行けば、過去の見た目になり、元の世界に戻れば、元の見た目になる。そう七海さんの身体にすでに仕込んであるので、違和感を感じないみたいですね」

「それじゃあ、本当に魔法のようなもの……?」

「魔法、とは少し違うかもしれませんが……。でも、そういう(たぐい)のもの、と思ってもらった方がスムーズかもしれませんね」

少し理解し難いなあ思ったが、そもそもこの列車が現実に存在した時点で、私は本来ならばあり得ない出来事を体感している。だから、彼の言う通り、〝そういうもの〟として受け止めるのが今は正しい気がする。

「あまりはっきりとしたことがお伝えできず、申し訳ないです」

ふに落ちない顔をしていたのだろう。そんな私の表情を見た車掌さんが、困ったように目尻を落とした。

私は首を横に振ると、「大丈夫です。そういうもんだと思うことにします」と微笑みながら返す。そして、もう一つだけ気になっていたことを聞いてみることにした。

「もう一つ、いいですか?」

「なんでしょう?」

「私が過去の世界で駅を利用するとき、他に客がいないのは、なにか関係しているのかなあと思って……。もともとうちの最寄り駅は利用客が少なかったんですけど、それでも、夕方の時刻にあんなに誰もいないのはおかしいな、と違和感も感じてしまって」

もう一つだけ私が気になっていたのは、夕方にも関わらず、駅の利用客が少なかった、というか、誰一人としていなかったこと。

私の最寄り駅は、もともとあまり利用する人がいない駅だった。けれど、時刻は夕方。その時間帯は、帰宅ラッシュと重なるだろう。ともなれば、数人は駅を利用する人がいてもおかしくはないはず。