……小夜の言う通りだ。私が泣いてばかりいると、小夜に心配をかけてしまう。
ただでさえ、きっと私がいなくなったと知ったとき、現実の世界にいる小夜は、悲しんでしまうのだから。せめてこの過去の世界の中では、笑って小夜を送り出そう。
私は、小夜の笑顔が一番大好きだから。
そう思った私は、ズズッと鼻をすすりながら、ゆっくりと伏せていた顔をあげる。きっと目も充血していて、鼻も赤い。お世辞にも可愛いといえるような顔じゃないと思うけれど、私はにこりと笑った。
「小夜」
「やっと、顔あげてくれたね」
「うん。……私、小夜のことが大好きだよ。私と一緒にいてくれてありがとう」
笑顔を保ったまま、改めて感謝の言葉を口にする。そしたら小夜も、「こちらこそ」と、少し照れながらも嬉しそうに頬を緩めてくれた。
そのまま数秒、見つめ合う私たち。
私の方から別れの言葉を押し出せないのは、もうこれが小夜と会う最後の瞬間だと、分かっているからだろうか。
目の前に立っている小夜もまた、同じように寂しげな表情を浮かべていて、胸が張り裂けそうだ。
「……それじゃあ、またね」
それからしばらくして、沈黙を破るように言葉を放ったのは、彼女の方。
まだ少し寂しそうな顔をしていた小夜だったけれど、それでも口角をあげてにっこりと笑顔を見せてくれる。
きっとそれは、この別れを悲しいものにしたくないという小夜の優しさ。そして何より、〝またすぐに会えるから大丈夫〟と、自分に言い聞かせて前を向こうとしているかのようだった。
「うん、またね。小夜」
彼女のその優しさを無駄にはしたくなくて、大切に大切に包んであげたくて。私も小夜に向かって歯を見せて笑う。
そうすれば、ほら。その私の笑顔に、小夜はまた嬉しそうな笑みを浮かべてくれるから。
ふと頭上を見上げると、夕焼けに染められていた空は色を変え、日もほとんど沈み、薄暗くなり始めていた。その中に、白い星がちらちらと姿を見せ始めている。
そんな空の下で、私たちは互いに大きく手を振った。そして背中を向け、別々の方角へ歩き出す。
少し彼女から離れたところで一度振り返ろうかと思ったけれど、それはやめた。だって、私から遠ざかっていく小夜の背中を見つめるのが、なんとなく寂しく思えて嫌だったから。