「約束って、なに?」
その内容が気になって仕方なかった私は、小夜の言葉を待つより先に、確信に迫ってしまった。
そんな私の様子を見て、慌ただしいなあと小夜は言いたげだ。それでも小夜は、約束の内容を明らかにするべく、口を開いてくれた。
「私はね、明日、違う町に引っ越しして、学校も転校することになるでしょ?」
「え?……ああ、うん。そうだね」
「それでも、いつでも連絡してね?」
「……うん」
思わず視線が宙を彷徨って、地面に落ちた。
「ほら、楽しいことがあったときとか、嬉しいことがあったときとか。あとは、……つらいときも、苦しいときも。七海は一人で抱えちゃう癖があるよね?でも、忘れないで。私が、七海のそばにいるってこと」
落ちたままの視線は、小夜に向くことはない。小夜の顔を、見るのが怖かったのだと思う。
彼女の言葉一つ一つは、まるで、今目の前にいる私が自ら死を選んだことを知っているかのように思えた。だからこそ、小夜の目を直視することができなかった。
……だって、私が自分で望んで死を選んだことを小夜が知ったら。なぜ私に相談してくれなかったの、と、悲しむと思ったから。
そしてそれと同時に、小夜に迷惑をかけたくないと言いながらも、彼女を信じていじめのことを相談できなかった、そんな自分のことも少し疎ましく感じた。
「七海の頼みなら、いつでも駆けつけるから。そんなに遠い町じゃない。車や電車を使えば、すぐなんだから。一人で悩まず、どうにもならなくなったときには、連絡してよね。そのときは、飛んで駆けつける。そして私が、抱きしめてあげる」
小夜はこんなにも、私のことを思ってくれていたのに。
「……ごめんね、小夜」
こぼれたのは、謝罪の言葉。それと同時に溢れた涙は、私の頬をツゥ、と虚しく伝う。
「なんで泣くの?七海は泣き虫なんだから」
土を踏む音が耳に届く。その音がどんどん大きくなったかと思えば、人の気配が目の前にきて、小夜が私の前に立っているのだと理解できた。
「ほら、七海。顔あげなよ。笑って、私のこと送り出してよ。じゃあないと、私、心置きなく引っ越しできないじゃん」
聞こえてきた七海の声は、とても穏やかで、そして優しかった。