だって、……私はきっと、小夜の顔を見るだけで泣き出してしまう。
いじめのことを、何度も相談しようと思った。けれど小夜に迷惑をかけたくないという思いの方が勝ってしまって、いつも言えなかった。
私にとって小夜は、初めてできた気の置ける友達だ。今も小夜の笑った顔を思い出すだけで、楽しかったあの日々が蘇り、戻りたいと強く思ってしまう。
「……七海さん」
小夜の名前を聞いてから、俯いたままだった私のことを呼ぶ優しい声。
見上げた先にいた車掌さんは、今の私の気持ちを分かっていると言わんばかりに微笑み、私の肩に掌を添える。そして、トン、と軽く叩いた。
「十七歳の三月の記憶に、出発してもよろしいですか?」
励ましか、寄り添いか。車掌さんの小さな優しさが、傷だらけになっていた私の心に染みる。
心配そうに眉を下げながらも、自分に向けられた彼の言葉に、私は大きく頷いてみせた。
「それでは、死神列車が発車します。駅に到着した後は順番にご案内致しますので、席に座ったまま僕が来るのをお待ちください」
「……はい、わかりました」
「駅に着くまでは、先程渡した注意事項の紙をしっかり見ていてくださいね」
そう言って私の手に握られた紙を指差した車掌さんは、にこりと微笑むと、車両の前の方に向かって歩いていく。
「大変お待たせ致しました。この列車は、皆様にお伝えした一つ目の記憶行きとなります。運行中は安全のため、席を動かないようにお願いします。……それでは、発車します」
それから間も無くして、車掌さんの声が車両内全体にアナウンスされた。
そして動き出した死神列車。窓から覗く外は暗く、この田舎町ではネオンも何もない。ただ暗闇の中を走る列車は、本当に死神列車のようだ。
……ああ、いよいよなんだなあ。
ガタンゴトンと列車が揺れる度、少しずつ心臓の音も大きくなっていく。自分の過去をもう一度体験することにドキドキと不安を覚えつつも、私は自分が握りしめていた一枚の紙に目線を落とした。
そこには、普通よりやや小さめと思われるくらいの文字がびっしりと羅列している。その内容を駅に到着するまでに知っておかなければいけないと思い、私はよく目を凝らした。