自分の意思とは裏腹に、じわりじわりと滲んできた涙。
そんな私の様子を見た車掌さんは、困ったように笑って、「つらいことを思い出させてしまって、ごめんなさい」と小さく言葉にした。
私はそれに無言で首を振るだけで、他に何もいえなかった。
「……はい、では、質問の方はこれで終わらせていただきます。これは本当に死神列車に乗るにふさわしい人か見極める、最終的なテストのようなものの意味合いで行っているのですが、今の七海さんの様子を見て、どれだけ苦しい日々を送ってきたのかが想像できました。ですので、これから本格的に手続きの方に移ってもよろしいですか?」
確かめるように目線を合わせられ、ゆっくりと頷く私。考えたら他の乗客もいるわけだし、私が出発を引き延ばすわけにもいかない。
そう思い、車掌さんの次の言葉を待つ。
「じゃあ、これから手続きの方を始めますね。これは、簡単に言えば、あなたがこれから途中で降車する三つの駅を決めるために行うものです」
「……はい」
「手続きといっても、何も難しいことはなく、七海さんはそのまま座っていてください。そしたら僕が、七海さんの頭に掌を置きます。そうすることで、七海さんの今までの人生の記憶が僕に取り込まれていくんです」
さっき、あの世まで行くためには三つの駅で降りなければならないということは聞いていたから、スムーズに理解することができた。
でも、その後のことはよく分からない。車掌さんに、私の人生の記憶が取り込まれていく……?それはつまり……。
「私が今まで経験してきた場面が、あなたの脳内にも映し出されるということ?」
「そういうことです」
車掌さんは口元を緩め、私の質問に大きく頷いた。
この人にそんなことができるのか、と一瞬怪訝に思ったけれど、この死神列車だって本来ならばありえないものだ。百パーセントないが、もしも私が現実に帰ることになっても、この話をしたところできっと誰も信じてはくれないだろう。
彼はその〝死神列車〟の車掌なのだ。ありえないことができても、不思議ではない。
「……ん?ちょっと待って」
車掌さんの能力にはなんとなく納得ができたが、今度は違う疑問が私の頭の中に浮かび上がる。
「どうしましたか?何か気になることでも?」
不思議そうに目を丸くした車掌さんが、私を捕らえた。
私が一つ、疑問に思ったこと。
「さっき、私の記憶を取り込むって言ってましたよね?それが、私の降車駅を決めるのにどう関係しているのかなあって思って……」
そうだ、車掌さんの能力は、簡単に言えば私の今までの記憶を見るというもの。