これが、死神列車……?
外装はいつもの電車となんら変わりない。違いに気が付いたのは、プシューと列車のドアが開いたときだった。
列車の床が、黒で統一されていたのだ。それはまるで、本当にあの世に誘ってくれるかのよう。
「ここが最後のお迎え駅ですね」
「……ひゃっ」
見たこともない内装に釘付けになっていると、私の目の前に、車掌さんの格好をした二十代後半と思われる男性が姿を現した。急な出来事に、背中をのけぞらせる私。
「死神列車に、ご乗車なさいますか?」
けれど車掌さんはそんなことを気にする素振りも見せず、にこりとした笑みを浮かべながら私に問いかけた。
〝死神列車〟
確かにこの人は、そう言った。
ということは、あのクラスメイトたちが話していた噂は、事実だったんだ……。
現実にこんなことが本当に起こるなんて、都合のいい夢を見ているんじゃないかと思う。でも紛れもなくこれは今起こっていることで、自分の頰をつねってみるも、鈍い痛みを感じるだけ。
「どうしますか?このままあなたを乗せず、出発することもできますが……」
車掌さんが、困ったように眉を落とした。だから私は、慌てて首を横に振る。
「乗ります、絶対乗ります」
このまま出発されては困る。せっかくここまで足を運び、死神列車に遭遇することができたのだ。地獄の日々から逃げ出せるチャンスを、そう簡単に捨てられるものか。
そう思ったら、自然と口が動いていた。私があまりに必死に思えたのか、車掌さんは少し目を見開いたけれど、すぐに元通りにっこりと笑う。
「では、お入りください。あなたが本日最後の乗車人になります」
「最後?」
車掌さんの言葉に、思わず聞き返してしまった。
「はい。先程も言いましたが、ここが最後のお迎え駅になりますので。ここから、列車は本格的に目的地へ向かうようになります」
列車の座席に案内されながら、車内をちらりと見渡してみる。列車は二両編成だったから、私が今乗っている車両はそのうちの一つ。そこには、私以外に二人の人がいた。
六十代くらいのおじいさんと、中学生くらいの女の子だ。彼女らも私と同じ、死を選択してここにいるのだろう。そう考えれば、少し心強くも思える。
少し思考がどこかへいっていた間にも車掌さんは歩く足を止めず、私たちは二人の前を通過した。案内されたのは、一番奥の席。ここで私はすぐあることに気がついた。列車の乗客人である三人は、一番前、真ん中、一番後ろと、上手い具合に配置されているのだ。