「あの……瀬戸さんだよね?」
入学式が終わり、体育館から教室へと戻る途中、やわらかい声に呼び止められる。振り返ると、入学式の最中、私の隣に座っていた女子がいた。背が低くて、髪はふんわりとした猫っ毛。目の大きいかわいい子だった。
「私、嶋野萌香。出席番号が瀬戸さんの前なんだ、よろしくね」
こちらに名札が見えるように傾け、嶋野さんはにこりと笑う。人好きのする笑顔なんだろうけど、戸惑ってしまう。
「よろしく」
控えめに笑って、私はまた歩きだす。そして、一生懸命話題を出してくれる彼女に、ただただ相槌を打った。整った顔で愛嬌もあり、人あたりもよさそうな嶋野さん。私は少し、こういう子が苦手だ。
「あーもう、めっちゃ話長かったわ。こういうときは男子たちを見て、HP回復しなきゃ。ほら、あのツーブロックのさ……て、あれ? ごめん、話し中だった?」
ぱたぱたとうしろから足音がしたと思ったら、声をかけてきたのは、鎌田沙和だった。彼女は中学からの友人だ。沙和は頭をかきながら眼鏡の位置を整え、嶋野さんを見て目を輝かせた。
「誰? めっちゃかわいいね」
沙和と嶋野さんはすぐに楽しそうに話しだす。私はふたりの様子を一歩下がったところからなんともなしに眺めていた。
沙和が来てくれると、楽だ。私の代わりにどうでもいい話をしてくれるから。
「瀬戸さんって、きれいな黒髪だね。サラサラだし、長いし、憧れちゃう」
「でっしょー、結子のこの髪はキャラを引き立たせてるからね!」
「ふふ、それってどういうこと? 鎌田さんっておもしろいね」
ほら、こんなふうに。