思春期の男の子のフラストレーションや葛藤にはとても共感できた。中学生になって、約束の星空を見せるためにふたりは丘を登る。汗だくになりながらも男の子がおばあちゃんの車椅子を押していくラストシーンは、目に浮かぶようだ。目が不自由になってきていたおばあちゃんが、その事実を隠して星空に感動している場面も、涙が滲む。きっとおばあちゃんは、男の子の気持ちにこそ感動したのだろう。

この前聴いたばかりだというのに、私はその十五分弱の世界に陶酔していた。聴き終えたところで、満足感から大きなため息をつく。

「……うん」

私は閉じていた目を開け、すぐさま引き出しから方眼紙と色鉛筆を取り出した。ラスクさんの世界を私の絵で表現するため、すごいスピードで下書きをし、色をつけていく。丘に吹く風も、満天の星も、男の子とおばあちゃんが夜空を眺める姿も、私が感じた情景をそのまま形にしたい。そんな情熱に動かされて、一心不乱に絵を描いていく。

こんなふうになることはたまにあった。物語の情景が鮮やかに目に浮かんだとき、 その想像した景色に心が動かされるような作品に出会ったときだ。ラスクさんのつく る話は、今までも全部、こうやって絵に起こした。前作までは録音できなかったから、その日のうちに夜更かしして描いた。

物語に浸っているとき、絵を描いているとき、私は私らしくいられる気がした。川北くんのことや破られた絵本のことを考えると胸が落ち着かなくなるけれど、絵を描き終えたら、きっと大したことじゃないって思えているはずだ。