「ていうか、幼なじみって。私、聞いてない」

すると、沙和が不服そうな目でじとっと私を見てきた。

「だから、思い出せないんだって」
「嘘だ。じゃなきゃ、他人に無関心な結子が、わざわざ相手を逆撫でするようなこと言うわけないし。らしくないわ」

はっきりとそう言い切った沙和は、眼鏡をくいっと上げて鼻を鳴らす。私は観念して、大きなため息をついた。

「さすが沙和。趣味が人間観察と妄想なだけあるね」
「そうよ、幼なじみなんてスペシャルな妄想材料、見逃すわけにはいかない」

どや顔がいっそすがすがしい。沙和は私にへんに気を遣ってこない。だから私も友達になれたんだろうと思う。思い出したくないことだから言いたくなかったけれど、沙和には話してもいいのかもしれない。

「……絵本をね、破かれたの」
「へ?」
「小学一年生の秋、幼なじみだった川北くんに」

沙和はきょとんとした顔で聞いている。工事をしている道に入り、その顔が小刻みに揺れはじめた。

「まぁでも、小さかったんだから、喧嘩の勢いとかであることなんじゃない? たまたま近くにあったものにあたったりして」
「その絵本は特別だったの。親にプレゼントするために頑張って手作りしたものだったから」

私の言葉を聞いて、沙和は一瞬固まり、苦い顔をする。