「結子ちゃーん、入学早々、どうしてそんなふうになるかな?」
帰りのバスの中、沙和がため息混じりに聞いてくる。
「私、心配だよ。"あの川北を一瞬で振った女、瀬戸結子"なんて噂されて」
「何それ。そんなこと言われてるの?」
「一部からね。一部の私から」
拳をつくって見せると、沙和がさっとバリアをするように両手を広げた。
「まぁ、これは冗談だけど。でも、入学したてだからさ、知らない人が多くてみんな 性格を探り合ってる中、教室の前でそんなことがあれば、噂話もすぐに広がるわよね。私じゃなくても、そんなふうに思う人がいると思うわ」
少し声を落として、沙和が腕組みをする。
「何人かに聞かれたもん、『川北くんと瀬戸さん、どういう関係?』って」
暇人が多いのかな。なんで、みんなそんなに他人に興味を持てるのだろう。
「そしたら、ちょうどモエモエがそれを聞いててさ。『あのふたりは幼なじみだったみたいだよ』って説明してくれたんだよね。だからみんな、ふざけ合ってただけかって納得したみたいだけど。モエモエに感謝しないと」
「へぇ……」
窓から流れる景色を見ながら、私はぼんやりと返す。