「なんだ、優しいとこ……」
「私が読みたいから借りました」
「は?」

きょとんとした川北くんの眉間に、ゆっくりしわが寄っていく。

「たぶん数日で読み終えて返すから、そのあと自分で松下先生に借りてください」
「あのさ、なんなの? 嫌がらせ? そこまで露骨な態度取られる覚えはないんだけど」

無視をして階段を上り終え、教室へと向かう。川北くんが大きな声を出したせいで、それに気づいた数人が私たちの方を見ていた。注目を浴びるのは苦手だけど、川北くんにかまわれることのほうが嫌だ。

「そんなに嫌なわけ? 俺のこと」
「はい」

迷うことなくそう返した。それで周囲がざわついたのがわかったけれど、関係ない。私は川北くんが嫌いだ。だって、私の大事なものを壊したのだから。

「できれば関わりたくありません」

久しぶりにしっかり見た彼の顔は、怒ったような、戸惑ったような顔だった。私たちは、それ以上何も言わなかった。