『今日のお話、いかがだったでしょうか。いやはや、最近はクオリティーの高い投稿作品が多くて、選出するのもひと苦労です。まぁ、それが楽しみでもあるんですけどね。それでは皆様、素敵な夜をお過ごしください。また来週』

優しく響く男性のパーソナリティの声のあとでお決まりのピアノ曲が流れ、十五分間の楽しみが終わる。
水曜日の夜九時から放送されるこのラジオ番組は、一般から募った短編小説を読み上げるだけのシンプルな構成だ。

「……ふぅ」

今日読み上げられたのは、最後にほろりと感動させるヒューマンドラマだった。つい涙腺を刺激された私は、鼻をかんでからスマホを操作してラジオを終了させる。
前回まではお母さんから譲り受けた小さなラジオ機で聴いていたけれど、高校の入学祝いということでスマホを買ってもらえたのだ。

私はさっそく録音機能がついたラジオアプリをインストールした。
前まで使っていたものは再生だけしかできなかったから、実際に録音されていることを確認し、小さく感動する。

「結子、明日の入学式の準備、大丈夫? 最終チェックしたほうがいいわよ?」

イヤホンを外すと同時に、お母さんの声がドアの向こうから聞こえてきた。
私は軽く返事をして、木製のハンガーラックにかかった制服を見る。
そこにはぱりっとした白いシャツと紺色のリボン、そして乱れひとつないブレザーのジャケットとプリーツスカートがかけられていた。

真新しいそれらを着て、私は明日から高校生になる。
けれど、それほど心は躍らなかった。
きっと、中学と同じような退屈な日々に変わりはないだろうから。