「廊下、終わった」

翌週月曜日の国語科準備室。ほうきをロッカーに片づけた川北くんが、「んー」と言いながら大きく伸びをする。私は前回同様、棚を拭くことに専念していた。

「無視?」
「あとはすぐ終わりますから、先に教室戻っていいですよ」

背を向けたままそう言って、私は掃除を続ける。

「ほんと……その口調、気持ち悪」

ため息とともにそうつぶやいて、川北くんは折りたたみ椅子に座った。

「ここの掃除、楽でよかったな」
「…………」
「これ、寝れんじゃね? ここで」

ずるずるとテーブルに突っ伏すような体勢になり、目を閉じる川北くん。今からテーブルを拭こうと思っていたから、すごく邪魔だ。しかたなく、また本棚を拭く。

「あ、その本読みたいと思ってたやつだ。一番右端の」

しばらく黙ったままだったから本当に寝るのかと思っていた矢先、川北くんがぽつりとそう言った。

「その"戸崎宗敏(とざきむねとし)"の短編集、勝手に借りても大丈夫かな?」

昨日、私も同じものが目に留まったけれど、そんなこと言う必要はない。「さあ」とだけ返すと、ガタン、と背後で椅子が動いた音がした。

「あのさ」

川北くんがそう口を開いたとき、松下先生が、「ご苦労様」と言って準備室に入ってくる。