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『結子、この絵は男? 女?』
『女の子に決まってるよ、将ちゃん。ほら、ちゃんと見てよ、ここにリボンがあるでしょ?』
『ちっさ。気づかないよ、こんなの』
田舎だったから、いつも遊んでいた公園は緑がいっぱいあって、細い小川も流れていた。その小川を越えると雑木林になっていて、手入れがされていなかったのか草も生い茂り、奥が見えないほどだった。
その中には、ほかとは色味の違う白っぽい一本の木があった。それを目印にまっすぐ進むと、草木が少ない空間に出る。アーチのように周囲の木々に囲まれたその場所は、私たちだけの秘密基地だった。
テーブルはダンボールを組み立て、その上に図工室にあった板を敷いてつくった。雨の日は、ビニール傘を木の枝に結びつけてしのぐ。今思えばただのはりぼてみたいな空間だったけれど、私にとってはお城みたいな、立派な秘密基地だった。
『で? 結子はどんな話にしたいの?』
『えっとね、この女の子が穴に落ちちゃうんだけど、そこは本当は魔法の世界で……』
『待って。じゃあ……"あるところに、ひとりの女の子がいました。ある日、女の子が歩いていると"……』
私たちは当時、絵本をつくることに夢中になっていた。幼稚園の卒園記念にみんなで絵本を描いたのがあまりにもおもしろくて、一番仲がよかった将ちゃんに声をかけたのがはじまりだ。