掃除時間は二十分間。床を掃き終わったあとに、棚拭きをはじめる。本棚にあるたくさんの本の背表紙を見ると、ちらほら小説も目に入って、そのたびに手を止めてしまった。
なんだか小さな図書館みたいだ。小説は松下先生の趣味だろうか。私が読みたかった短編集もある。

「瀬戸」

思わず短編集を手に取ろうとしたとき、いつの間にか準備室に戻ってきていた川北くんに声をかけられた。

「本当に離婚したんだな」

川北くんがロッカーにほうきを片づけながら口を開く。掃除の作業のひとつのように、その口調は業務的に聞こえた。

「急に引っ越していったし、まぁ、親伝いに噂程度で聞いてたけど」
「…………」
「瀬戸、って呼ぶの、なんか違和感あるわ」

私はそれに答えず長机を拭く。川北くんは、もう自分の仕事は終わったとばかりに、折りたたみ椅子に腰かけた。

「俺は、親の転勤で小学校卒業してすぐに引っ越して、こっち来た」

いったいなぜそんな話をするんだろう。長机を拭くと、たまっていたほこりがふっと散らばって私は少し咳き込んだ。