「国語科の教師陣は普段は職員室だし、ここを使うのは、私か、入試のために小論文 指導を受けに来る生徒くらいだ。あとは、ちらほら資料を取りに来る人間がいるだけ。私もたまにしか来ないし、そんなに汚れんよ」

その先生はしわをいっぱいつくって微笑んだ。名前は、松下(まつした)先生というらしい。白髪が目立つ先生だ。ここを使用する教師が自分しかおらず、暗黙の了解なのか年の功なのか、松下先生の部屋みたいになっているとのことだった。

「まぁ、試験採点期間以外この時間は開けておくから、私がいなくても勝手に掃除をはじめてくれ」

松下先生は、髭を撫でながらまた私たちの横を通り過ぎ、「それじゃ、よろしく」と言って、出ていった。私たちは開いたままのドアをしばらく見つめていたけれど、川北くんのほうが先に口を開く。

「適当な先生だな」

けれど、私は返事をしなかった。彼はため息をつき、ロッカーからほうきをふたつ取り出す。

「俺、廊下やるから」

そして片方を私に差し出し、廊下に出ていった。