「どうも」
「ていうか、もう目の前まで来ましたけど」

冷ややかに言うと、人差し指で地図を辿ろうとしていた川北くんが、「あ?」と顔を上げる。そして、ドアに手をかけた私に、
「感じ悪……」
と、昨日と同じセリフを吐いた。

国語科準備室は六畳ほどの部屋だった。その三分の一は本棚で、文法の本、小論文の本など、国語関連の資料がぎゅうぎゅうに並べられていた。
クリーム色のカーテンがかかった窓際には、先生用だろう、雑然としている机と座り心地のよさそうな椅子がある。そして部屋の真ん中に、長机と折りたたみ椅子が二脚置かれていた。

「ここの掃除は適当でいいよ、適当で」

中に入るとすぐに廊下から男の人の声がして、私たちは同時に肩を上げる。

「掃除道具は、そこのロッカーね。ちゃちゃっと掃いて、棚とか机を拭くだけ。あ、あと、廊下も。ここからトイレまでが範囲だから。それ終われば椅子に座ってくつろいでいてもいいし、教室に戻ってもいい」

そう言いながらその人は、私たちの横を通って窓際の机の前で立ち止まる。