「怖いんじゃなくて、悔しいよ。今ここで死ぬのは悔しい。投げ出したくない現実も、生物として壊れかけた体も、どんな要因と分岐があってそうなってしまったのか、わからないままだ。今はまだ終われない。それに、おれは……おれは、カイリと……」

 生きているのか死んでいるのか、命の瀬戸際にいて、ギリギリの感情がせめぎ合う状況にあるのに、ささやかな想いを言葉にすることが難しい。恥ずかしくて、戸惑っている。

「わたしが、何?」
 重ねて問われて、しがみ付くように、すがり付くように、ささやく。
「おれはカイリと恋に落ちてみたい」
 だから、今はまだ死にたくない。

「恋だなんて、なぜそんなことを?」
「なぜって、理由はわからないよ。いつそんな気持ちになったのかもわからない。でも、恋というものをしている自分と、ちゃんと一から向き合ってみたくて。そうしたら、自分のことも、自分以外の誰かのことも、初めて大切にできる気がして」

「その誰かというのは、わたしである必要があるの?」
「当たり前だろう? 何もかも受け止めてくれそうな顔をして、おれが沈み込むときは、気付いたら隣にいて。そんなふうにされて、興味を惹かれないわけがない。ずるいよ」
「ずるい?」

 おれはうなずいた。
「こんな気持ちになるなんて、自分で自分がわからない。できるという自信や、わかっているという確信がないと、おれは新しいことに手を出さないはずなのに。もう、ぐちゃぐちゃだ」
「本当にね。人間は不思議。衝動と感情のありかが全然違うから不思議」

 カイリは首をかしげた。その口元に、かすかに、からかうような笑みがある。カイリにはおれの感情の正体が見えているんだろうか。
 おれはとっくにカイリを好きになっているのかもしれない。ただ単に、カイリの自然体なところやきれいな顔、どことなく色っぽい体に憧れているのかもしれない。さわってみたいと思うのは、もしかして、欲にまみれた汚い衝動に過ぎないのか。

 だけど、わからないことだらけのふわふわした中で、一つだけ、これだけは確かだ。

「カイリにおれを知ってもらいたい。おれもカイリのことを知りたい。おれがカイリの隣にいるのは当然だと言ってみたい。何かあったら真っ先に話したくなるような、お互いにとって特別な存在でありたい」
「そうすることに何の意味がある? それがユリトのためになるの?」

 イエスだろうか、ノーだろうか。
 そんなの、今すぐ答えを出せるわけがないだろう。
 あっさり答えられるくらいなら、おれは道に迷ったりしなかった。迷わなければ、この島に来ることもなかった。おれが持っているのは答えじゃなくて、解き方のわからない問いばっかりだ。

「カイリの目には、おれはどんなふうに映る? どうしようもなく未熟な子ども? 年齢の割には賢い人間? 背伸びして足下が見えてないバカ? 眠るっていう生物としての機能が狂った、救いのない生物?」

「全部違うし、全部そうだよ。ユリトという人間は、ユリトでしかない。この世に一人しかいない。ユリトがどんなふうに見られたいのかわからないけど、どんなふうにも見えない。一言じゃまとめられなくて、たくさん矛盾してる。それがユリトという人間」

 ああ、それだ、と思った。泣き出しそうになった。
 聞きたかった答えは、それだった。着飾っていないおれをそのまま、ただ真正面から見つめてほしかった。丸ごと認めてほしかった。
 ほら、カイリはずるい。