「ケイちゃんの話を聞いた時点で、僕はこうなるってわかっていたんだ。それなのに、僕はそれを教えないで、警察に見つかるまで君を家に置いた。だから、ケイちゃんがそこまで自分を追い詰める必要はないんだ」
私を気遣って言っているのではないとわかった。
きっと、先生の本心。
だとしても、私が先生の人生を壊してしまったことに変わりはない。
何も言われても、そう思わずにはいられなかった。
「僕は、苦しむケイちゃんを助けたかった。ただそれだけなんだ。だから、笑ってくれると嬉しい」
「なんで、私なんかにそこまで……」
初対面でいきなり変なことを頼んでくるようなな、世間をまるで理解していない子供を、どうしてここまで思ってくれたのか、まったくわからない。
「職業柄、困ってる子供は無視できないんだ。でも小学教師である僕は、ケイちゃんとどう向き合えばいいのかわからなかった。だから、君の提案に乗るようなことをしてしまった」
「口を挟んで悪いが、大人として子供の間違った行動を注意しないのはどうかと思うが」
すると、ずっと黙って聞いていた父親が間に入って来た。
先生の言葉を聞いていなかったのかと言い返してやろうと思ったのに、そんなことを言える空気ではなかった。
先生は強い目でお父さんを見る。
「お父さんは、彼女がどれだけ追い詰められていたのか気付いていなかったんですか?お父さんの仕事を否定するつもりはありませんが、その仕事のせいで彼女が近所の方と気まずくなっていたのはたしかなはずです」
私もお父さんも、口を噤んで先生の話を聞く。
「両親のせいで生まれたいざこざは、いずれ学校に持ち込まれます。そのせいで、彼女がいじめられていたかもしれないんです。何も解決できていない状態で、彼女を帰すことはできないと、僕は思いました。たとえそれが、間違ったことだとしても」
先生が話し終えると、その場は静寂に支配される。
何か言わなければと思うのに、言葉が出てこない。
無言の時間が続いていたら、面会の時間が終わってしまった。
「先生!」
部屋を出て行く先生を呼び止めるけど、やっぱり何も思い浮かばない。
早く言わなければと焦れば焦るほど、頭は働かない。
「ケイちゃん……?」
振り向く先生は、不思議そうな顔をしている。
それがなぜか私を落ち着かせてくれた。
「先生、ありがとうございました」
私は深く頭を下げた。
自分のつま先を見つめている間に、ドアが閉まる音がした。
「ケイ、帰ろう」
父親に背中を支えられながら、面会室を後にした。
「お父さん……私、高校教師になる。私みたいに苦しんでいたり、間違ったことをしようとしている子たちを助けられるようになりたい」
家に帰って、じっくり考えた結果だった。
先生との出会い、できごとをなかったことにしないようにするには、これしかないと思った。
それが伝わったのか、父親は満足そうに笑っていた。
私を気遣って言っているのではないとわかった。
きっと、先生の本心。
だとしても、私が先生の人生を壊してしまったことに変わりはない。
何も言われても、そう思わずにはいられなかった。
「僕は、苦しむケイちゃんを助けたかった。ただそれだけなんだ。だから、笑ってくれると嬉しい」
「なんで、私なんかにそこまで……」
初対面でいきなり変なことを頼んでくるようなな、世間をまるで理解していない子供を、どうしてここまで思ってくれたのか、まったくわからない。
「職業柄、困ってる子供は無視できないんだ。でも小学教師である僕は、ケイちゃんとどう向き合えばいいのかわからなかった。だから、君の提案に乗るようなことをしてしまった」
「口を挟んで悪いが、大人として子供の間違った行動を注意しないのはどうかと思うが」
すると、ずっと黙って聞いていた父親が間に入って来た。
先生の言葉を聞いていなかったのかと言い返してやろうと思ったのに、そんなことを言える空気ではなかった。
先生は強い目でお父さんを見る。
「お父さんは、彼女がどれだけ追い詰められていたのか気付いていなかったんですか?お父さんの仕事を否定するつもりはありませんが、その仕事のせいで彼女が近所の方と気まずくなっていたのはたしかなはずです」
私もお父さんも、口を噤んで先生の話を聞く。
「両親のせいで生まれたいざこざは、いずれ学校に持ち込まれます。そのせいで、彼女がいじめられていたかもしれないんです。何も解決できていない状態で、彼女を帰すことはできないと、僕は思いました。たとえそれが、間違ったことだとしても」
先生が話し終えると、その場は静寂に支配される。
何か言わなければと思うのに、言葉が出てこない。
無言の時間が続いていたら、面会の時間が終わってしまった。
「先生!」
部屋を出て行く先生を呼び止めるけど、やっぱり何も思い浮かばない。
早く言わなければと焦れば焦るほど、頭は働かない。
「ケイちゃん……?」
振り向く先生は、不思議そうな顔をしている。
それがなぜか私を落ち着かせてくれた。
「先生、ありがとうございました」
私は深く頭を下げた。
自分のつま先を見つめている間に、ドアが閉まる音がした。
「ケイ、帰ろう」
父親に背中を支えられながら、面会室を後にした。
「お父さん……私、高校教師になる。私みたいに苦しんでいたり、間違ったことをしようとしている子たちを助けられるようになりたい」
家に帰って、じっくり考えた結果だった。
先生との出会い、できごとをなかったことにしないようにするには、これしかないと思った。
それが伝わったのか、父親は満足そうに笑っていた。