「謝らないでよ」

 俺はどうしていいかわからなくなって、自分のつま先を見つめる。

「二人の噂はいろいろ聞いた。その中で、まだ付き合ってない、ただの幼なじみだっていう不確かな情報が耳に入ったから、体育祭のときに近付いたんだ」

 あのとき近江がひなたのところに行ってたのは、そういう理由だったのか……

「あのとき、矢野君は仲のいい女友達というお題で、ひなたちゃんのところに来た。そこで二人が付き合ってないって確定して、僕にもチャンスがあるのかなって」

 だからデートに誘ってきたのか。
 近江は俺が思っていた以上に行動派らしい。

「……なんて、そう思ってた過去を今すぐにでも消し去りたいよ」

 はっきりとは言わないけど、なんとなく予想がつく。
 天形だろう。

「そういうわけで、正確には好きだった人、だね。つまり、僕には好きな人はいないってことになる」

 その結論に至ったことに驚いて、俺はまた振り向く。

「そんな簡単に諦められるのか?」
「なんて言えばいいのかな……この子と付き合えたら楽しいだろうな、て感じだったんだ。ひなたちゃんは、本当の自分を隠してしまう僕のことを肯定してくれたし」

 それを好きと言うのでは、と思ったけど言わないでおこう。
 これ以上強敵が増えては困る。