翌朝、俺はひなたの家に向かった。
 ひなたの気持ちをほぼ無視したような付き合いでも、普通のカップルみたいなことはしろ、と夏希に言われたからだ。

 まあ、言われなくても迎えに行くつもりではあったけど。

 ちょうど着くころに、ひなたが家から出てきた。

「ひなた。おはよう」

 俺がいると思っていなかったのか、ひなたはかなり驚いているように見えた。

「おはよう、聖……」

 だけど、近付いてよく見ると違った。
 疲れた表情をしている。

 やっぱり利用してって言ったのはよくなかったのかもしれない。
 ひなたは相当悩んだんだろう。

「じゃあ、行こうか」

 俺は微笑むと、そのまま歩き始めた。

 手はつながない。
 普通のカップルみたいなことも、しない。

 できるだけ今まで通りにする。
 そうしないと、ひなたはさらに悩んでしまうかもしれないから。

 ひなたの笑顔を見るために無茶を言ったのに、俺がひなたを苦しめていたら元も子もない。

 いろいろ考えていたせいで、特に会話もなく学校に着いてしまった。
 そのまま教室に入り、自分の席に着く。

「なあ、矢野。海崎さんにフラれたのに一緒に来たのか?」
「フラれてないけど、なんで?」
「険悪そうに見えたから」

 そいつの言葉にムカついて、俺はわざとそれ以上話しかけられないようにした。