「だって……私はまだ……」
「男を忘れるには新しい男を作る」

　想定外の言葉に、顔を上げてしまう。

「って、聞いたことある」

　沙奈ちゃんは私が悩んでいるのを吹き飛ばすかのように、笑う。

「そこまで難しく考えなくてもいいと思うよ。楽しく過ごせるなら、それでいいじゃん」

　そんなふうに考えたことがなかったから、正直目から鱗だった。

「でもまあ、結論を出すのはひなただから、あまり言わないけどさ。少し前に進むことも大切なんじゃないかなって、私は思うよ」

　沙奈ちゃんは私の背中を二回叩き、そのまま背中を押した。
　前のドアから教室に入った瞬間、私はみんなの視線を独り占めした。

　これは、まずいかもしれない。

　根掘り葉掘り聞かれる覚悟を決めるけど、誰も聞いてこない。
　私は聖の姿を探す。

　真ん中あたりにいた聖は、微笑んでいる。
　先に教室に入って、何かしたか、言った……んだと思う。

　本当に、優しい人だ。
　気遣いも完璧で。
　みんなからの信頼は抜群。

　そんな人がずっとそばにいたのに、どうして私は気付かなかったんだろう。
　今になって気付くとか、遅すぎる。

「ちょ、ひなた!?」

　沙奈ちゃんの慌てる声で、自分が泣いていることに気付いた。