「聖ったら意地悪ねえ。なんのためにスマホを持ってるの? 待ち合わせして渡してくれたらいいの」

 諦めが悪いというか、人聞きの悪いというか。
 有川の家の場所も知らないで、適当なことは言わないで欲しい。

 なんて思いながらも、俺は二人分の弁当を受け取った。

「さすが聖。行ってらっしゃい」

 策士だ。
 策士がいる。

「……行ってきます」

 家を出てすぐ、夏希に電話をかけた。
 長い呼び出し音。

「もしもし?」

 出たのはひなただった。
 予想外の人物に、思わずスマホを落としそうになる。

 なにげにひなたと電話をするのはこれが初めてで、妙に緊張してしまう。

 こんなに耳元で聞こえるのか……

「聖?」
「……ごめん、おはよう、ひなた」

 声が震える。

「おはよう。夏希に代わりに出てって言われて」
「……だと思った」

 夏希はめちゃくちゃ朝が弱く、起きても不機嫌なことが多い。
 正直、「あ?」って言われることを覚悟して電話をかけた。

「まだ有川の家?」
「うん、じゃなきゃ夏希の電話には出れないよね」

 ……確かに。

「夏希に、弁当渡したいんだけどどこで渡すか聞いてもらえる?」

 スマホを耳から離して聞いているのか、ひなたの声が少し遠くなった。