そのとき、ノックの音がした。
 沙奈ちゃんはドアを開ける。

「ケーキ買ってきたから、どうぞ」

 沙奈ちゃんのお母さんは、沙奈ちゃんにケーキを渡すと、何も言わずに一階に降りていった。

 沙奈ちゃんは受け取ったケーキを、ローテーブルに置けなかったから一人一人に渡す。
 そのまま手に持っておくわけにもいかず、私はフルーツタルトを一口食べた。

「おいしい……」
「お母さんが選ぶお菓子系はハズレがないんだよねー」

 沙奈ちゃんはショートケーキを頬張る。
 体型を気にして買ってこないでと言っていたのが嘘みたい。

 ……なんて、それは嘘だったんだろうけど。
 私が遠慮してるのに気付いてただけだろうし。

「ひなた、あーん」

 すると、夏希にフォークを向けられて、反射的に口を開いてしまった。
 何を食べさせられたのかわからず、口の中で味を確認する。

 少し甘酸っぱい……?

「……夏希、レーズン食べさせるのやめてよ」
「だって嫌いなんだもーん」

 ケーキの上に一つだけ飾りとして乗っていたレーズンを、私に食べさせたみたいだった。
 開き直った夏希は、残りのチョコケーキを美味しそうに食べる。

 フルーツタルトを少しずつ食べていくと、頭の中のモヤモヤが晴れていくような気がした。