夏希の休憩時間が終わると、私たちは店を出た。
 今度は沙奈ちゃんと聖が並んで前を歩いた。

「……ひなたちゃんはかっこいいね」

 少し後ろを歩いていた近江君が、危うく聞き逃してしまうような声で言った。

「かっこいいのは近江君だよ?」
「容姿じゃなくて、性格というか考え方」

 そんなことを言われたのは初めてで、なんだか嬉しかった。

「僕もひなたちゃんみたいに自分を持ってたらなあ……」

 それはたぶん、近江君の本音だと思う。
 寂しそうな表情を浮かべる近江君を、凝視してしまう。
 視線に気付いた近江君は顔を背けた。

「あのね、近江君。私は、近江君が自分を持っていないとは思わない」
「……気休めの言葉はいらないよ」

 そっぽを向く近江君の顔が下に落ちていく。

「気休めなんかじゃない。本心」

 ゆっくりと私のほうを向いた近江君は、どこか落ち込んでいるように見える。

「近江君は、みんなが求めるキャラを演じてる。それってすごいことだと思うよ」
「……空っぽってことでしょ」

 沙奈ちゃんに言われたことを気にしているみたいだった。
 私の言葉で近江君を励ますことができるなんて思ってないけど、何も言わないなんてことはできない。