篠田さんの言う彼氏は、聖のことだろう。
 近江君が言っていた、天形に会いに行ったというやつかもしれない。

 多分だけど、天形から連絡をもらったということがバレて、関わらないようにしてほしいと頼みに来たのかもしれない。

「彼氏が彼女のことで話があるって会うのは、彼女の元彼か彼女を奪われる恐れがある相手しかいない」

 篠田さんの推測が思いのほか的確で、自分の経験不足を突きつけられているような感覚になる。

「アキラは彼女はいないって言った。だったら、アキラがあなたを奪おうとしているってことになる」

 それは飛躍しすぎだと思う。
 天形に彼女がいないからといって、その結論に結びつけるのには無理がある。

「あなたには彼氏がいるじゃん……アキラ、私にちょうだい……」

 篠田さんは今にでも泣き出しそうだ。
 だけど、ここで引き下がっていては昔と同じだ。

 聖も近江君も傷つけて、ここまで来た。
 逃げたら、絶対ダメだ。

 私は意味もなく立ち上がる。

「渡せない。あの日、天形に会いに来たのは私の彼氏じゃないし、私だって……天形が好きだから」

 すると、盛り上がる野次馬の声がやっと聞こえた。
 まったく周りが見えていなかった。