だけど、女子ばかりで男子が見当たらない。

「ご注文はお決まりですか?」

 小悪魔さんに聞かれて、慌ててメニューを見る。

「ココア、ください」

 ひとまず、目についたものを頼む。

「あの、ここの仮装って女子だけなんですか?」

 店員さんが離れていきそうになるところを引き止めて聞いたが、すぐに後悔した。
 仕事の邪魔をしてしまったのではないか。

「午前中が女子で、午後が男子なんです。好きな人でもいるんですか?」

 どうやらそんなことはなかったらしい。
 というより、恋バナが好きなのか、接客しているときよりもいい顔をしている。

「いえ、少し気になったので」
「……そうですか」

 肩を落として去っていく背中を見ると、何もしていないのに、悪いことをした気分になる。

「あ! 篠田!」

 その名に、体が固まる。
 私は咄嗟に顔を落とした。

「もう、やっと帰ってきた!」
「また天形のところにでも行ってたんでしょ?なんで客の呼び込みに行って、遊んで帰ってくるかなあ」

 全身が心臓になったみたいだった。
 目を閉じてしまうと、意識が全て耳に行ってしまい、結局目を開けた。

 そのとき、テーブルにコップが置かれた。

「大丈夫ですか? 気分悪いですか?」

私が注文したアイスココアを持ってきてくれたメイドさんが、心配そうな表情で顔を覗き込んできた。