私には説明してくれたのに、と思ったけど、冬花ちゃんが首を振った理由はそこではないんだと思う。

「夏希、ふうかちゃんじゃなくて冬花ちゃん」
「うそ、ごめん」

 冬花ちゃんは私の服を掴みながら、また首を横に振った。

「あ、いた!」

 夏希と冬花ちゃんの心の距離が開いてしまったときに、沙奈ちゃんが来た。
 冬花ちゃんは余計に私に隠れてしまう。

 どうやら人見知りらしい。

「迷子ってその子なの? 可愛い」
「近江君の妹の、冬花ちゃんだよ」

 そう言った瞬間、沙奈ちゃんは複雑そうな顔をした。

「近江の……? でも可愛い……」

 不思議な葛藤だ。

「みんな、お兄ちゃんのこと知ってる人?」
「うん、そうだよ」

 優しく笑いかけると、冬花ちゃんはどこか安心したような表情を見せてくれた。

「あ……そう言えば、近江見かけたかも」

 沙奈ちゃんがそう言うと、冬花ちゃんは目を輝かせた。
 今日一でいい顔だ。

 沙奈ちゃんは冬花ちゃんの頭に手を置いた。

「お姉さんが呼んできてあげる。だから、もうちょっと待っててね」
「近江君がどこにいるか、知ってるの?」
「ここに来る途中、女にキャーキャー言われてるとこ見かけた」

 まるで嫌なものでも見たかのような言い草に、苦笑する。