「ねえ、結羽」
「あたしは自分のことしか見えない。ちょっと先の未来もわかんない。まずは、がむしゃらに走りたい。誰にも邪魔されたくない」
「邪魔なんかしない。誓うよ。おれは、結羽と一緒に走りたい。小近島の思い出を共有してるみたいに、将来の夢も共有したいんだ」

「あたしの夢は、あたしのものだ」
「でも、結羽が夢を叶えることで幸せを感じられる人は、たくさんいる。おれは、結羽のいちばん近くで、その幸せを感じたい」

「あたしは一人でいたい」
「結羽がどれだけ一人になりたがっても、おれは後に引かないよ。結羽は一人が好きなんじゃない。一人でいれば人を傷付けないって思って、人を傷付けるのを怖がってるだけだ」

「だったら何?」
「おれは、簡単に傷付くようなタマじゃないから、そばに置いてよ。何でもぶつけてくれていい。ほっとかれると、いじけるけどさ」

 良一の手が、ゆっくりとあたしに近付いてきた。あたしは顔を背けた。良一の手が肩に触れる。今度はビクッとせずに済んだ。
 でも、触れられたいわけじゃないから。

「離れてよ」
「イヤなら離れる」
「イヤだ」
「どうして?」

 そんなの、一つひとつ言葉で簡単に説明できるなら、あたしは、壊れるほど悩んだりしなかった。理屈の通らないぐちゃぐちゃが、あたしを人から遠ざける。人が怖い。人が嫌い。人が憎い。
 あたしの口が、とっさに動いた。

「近すぎ。ギター弾くのの邪魔だから、離れて」
 言ってしまってから、ああ、そうだなと思った。あたしは今、ギターが弾きたい。暴れる感情を自分なりに理解するには、理屈であれこれ考えるより、音楽がいい。