ひどく痛々しそうな色をした良一の視線が、あたしの頬のあたりに刺さっている。あたしはまっすぐ前を向いて、じっと無表情を保った。

「でも、結羽のご両親は、結羽の言うこと、信用してくれただろ?」
「たぶんね」
「たぶんって」

「親として、娘であるあたしを信用してくれたとは思う。だけど、教育者として、あの席に呼び出されてどれだけ悲しかったか、あたしには想像もできない。いじめる側に立った子どもの保護者として、相手に頭を下げたんだよ。教育委員会の担当者がいる前で」
 罰当たりで親不孝な自分を、あたしは呪った。

 良一は大きな息をついた。自分の髪をくしゃくしゃに掻き回す。何かを言おうとして失敗する、みたいなのを何度も繰り返した。あー、と低くうめいて、それから、ため息交じりにようやく言った。

「だから、結羽は自分を傷付けたのか。眠らない、笑わないようになったのも、おれたちと連絡を取らなくなったのも、それが原因だったんだな」
「あたしなんかが人間らしくしてる価値もないって思ったら、体が壊れたの。ほんとは死にたかった」
「やめてくれよ」

「そのへんは警察に説得された。夜中に家出してギター弾いてたら、見回りの警察に見付かって、うちの中学のいじめ事件も知ってる人で。いろいろ話してるうちに、歌ってみろって言われて、警察署の中で真夜中のライヴ」
「マジで?」
「うん」

「すごいっていうか、熱い人がいるんだな」
「バカバカしい話だけど、大勢に拍手してもらった後で死ぬなとか言われて、何か納得しちゃった。夜、本当は出歩いちゃいけない時刻でも、どうしても家にいられないって言ったら、家からいちばん近い交番の隣の公園でなら弾いていいって許可も出た」

 良一は、力の抜けた笑い方をした。
「警察の人たちにお礼を言いたいよ。結羽をつかまえてくれて、よかった」
「つかまえるって、人聞き悪い。別に補導されたわけじゃない」
「わかってるよ。そういう意味じゃなくて、現実につなぎ止めてくれたっていうか。結羽が違う世界に行かないでくれて、ほんとによかった」

「違う世界? あの世ってこと?」
「いや、社会とのつながりを保っていられないくらい、めちゃくちゃな世界っていうのがあるから。おれの最初の家族がそうだけど、穴の底みたいな感じだった。そこまで行っちゃうと、まともな社会の人からは、穴の底の人の姿が見えなくなる」

「あたしも行きかけたと思う」
「結羽は、そっちの世界に行くようには生まれついてないよ。動画を観てて、そう思った。どうにかして、あがこうとして、努力できるんだから。穴に落ちても、無抵抗で底まで沈んでいかない。這い上がれる」

 良一の言いたいことは、わかるようでわからなかった。だって、あたしは、良一が思っているほど上等な人間じゃないんだ。