「中学は三年間、転校しなかった。楽しくない学校だった。友達と呼べる人もいなくて。でも、あたしはそういうのを寂しいとか感じるタイプでもないから、それはそれでよかったの。全部が壊れたのは、中二の冬。学校に呼び出された」
いじめの件で、お話があります。電話口でそう告げられた。
やっぱりこうなってしまったか、と、あたしは思った。電話を手にした母が青ざめるのを見ながら、あたしもたぶん、同じように真っ青だった。家の中で笑うことをしなくなったのは、この日からだ。
いじめが原因で転校していく子がいて、その子の両親が関係者を集めた。いじめた子とその両親、担任、校長、教頭、学年主任、教育委員会の担当者、警察。
あたしと両親も呼び出された。あたしの一言が、いじめの発端だったから。
いじめを受けた女子生徒とは、中二で同じクラスになった。出席番号順で決められた席で前後だった。彼女のほうから声を掛けてきた。よくしゃべる子で、いつも誰かと一緒にいたがるタイプだった。あたしはほどほどにあいづちを打つ役だった。
「クールな一匹狼キャラ、みたいな。中学時代のあたしの立ち位置、そんなふうだった。自分で言うのもどうかと思うけど、事実だから言うけど、勉強できるし一人でいられるし、あたしは特別視されてるとこがあった。発言力があるって見なされてた」
だから、もっと言葉に気を付けるべきだった。彼女を遠ざけるにしても、注意深い態度を取るべきだった。
彼女の距離感は、あたしとは違った。彼女は、一人でいられなくて、べったりと人に甘えて、かまってもらえないと不安になるらしくて、あたしの後をついて回った。急に抱き付いてきたりして、そういうのは、あたしは苦手だった。
「付きまとわれても困るって、ハッキリ言ってしまった。クラスの女子、みんな聞いてた。その子が泣き出して、誰もその子をかばったりしなくて、むしろ自業自得とか言う子もいて、まずいなって思ったけど授業が始まって、フォローできなくて」
授業が終わった次の休み時間から、彼女はあたしを避けるようになった。まあいっか、と思った。気楽だな、と。やっぱりあたしは薄情な人間だなと、自嘲的な気分にもなった。
異変に気付いたのは、次の週だった。
「その子がいじめに遭い始めてた。あの松本さんが見放したほどのクズっていう保証付きで。違うって言いたかった。あたし個人が彼女と合わないってだけで、いじめろなんて命令してない。あいつならいじめていいなんて許可、誰が出せるっていうの?」
いじめの件で、お話があります。電話口でそう告げられた。
やっぱりこうなってしまったか、と、あたしは思った。電話を手にした母が青ざめるのを見ながら、あたしもたぶん、同じように真っ青だった。家の中で笑うことをしなくなったのは、この日からだ。
いじめが原因で転校していく子がいて、その子の両親が関係者を集めた。いじめた子とその両親、担任、校長、教頭、学年主任、教育委員会の担当者、警察。
あたしと両親も呼び出された。あたしの一言が、いじめの発端だったから。
いじめを受けた女子生徒とは、中二で同じクラスになった。出席番号順で決められた席で前後だった。彼女のほうから声を掛けてきた。よくしゃべる子で、いつも誰かと一緒にいたがるタイプだった。あたしはほどほどにあいづちを打つ役だった。
「クールな一匹狼キャラ、みたいな。中学時代のあたしの立ち位置、そんなふうだった。自分で言うのもどうかと思うけど、事実だから言うけど、勉強できるし一人でいられるし、あたしは特別視されてるとこがあった。発言力があるって見なされてた」
だから、もっと言葉に気を付けるべきだった。彼女を遠ざけるにしても、注意深い態度を取るべきだった。
彼女の距離感は、あたしとは違った。彼女は、一人でいられなくて、べったりと人に甘えて、かまってもらえないと不安になるらしくて、あたしの後をついて回った。急に抱き付いてきたりして、そういうのは、あたしは苦手だった。
「付きまとわれても困るって、ハッキリ言ってしまった。クラスの女子、みんな聞いてた。その子が泣き出して、誰もその子をかばったりしなくて、むしろ自業自得とか言う子もいて、まずいなって思ったけど授業が始まって、フォローできなくて」
授業が終わった次の休み時間から、彼女はあたしを避けるようになった。まあいっか、と思った。気楽だな、と。やっぱりあたしは薄情な人間だなと、自嘲的な気分にもなった。
異変に気付いたのは、次の週だった。
「その子がいじめに遭い始めてた。あの松本さんが見放したほどのクズっていう保証付きで。違うって言いたかった。あたし個人が彼女と合わないってだけで、いじめろなんて命令してない。あいつならいじめていいなんて許可、誰が出せるっていうの?」