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 夜は早めに布団に入った。あたしは、疲れた体を横たえて、眠れないまま時が過ぎるのを待った。そして午前〇時を回るころ、そっと網戸を開けた。ギターを背負って家を抜け出す。

 見上げれば、満天の星。虫の声、さざ波の音、潮の匂いがする夜風。
 防波堤に行こうと歩き出したら、自分とは違う足音が聞こえた。振り返る。眼鏡を掛けた良一がいる。

「またついて来るの?」
「おれも外に出たくなっただけだよ。岡浦小に行かない?」
「何で?」
「学校が見たい。ちゃんと全部そろってる姿を見たいなって」

 何それ、と反射的に言いながら、あたしにも良一の気持ちがわかった。生きて機能している小学校なら何でもいいから、元気な姿を目の前に示してほしい。あたしたちが過ごしたころの真節小の幻に、今だけ甘えさせてほしい。

 岡浦小の校舎は、白い鉄筋コンクリートの二階建てだ。花壇がきれいに整えられていた。用務員さんが花好きなんだと、夏井先生が言っていた。里穂さんも土いじりが好きで、よく手伝っているらしい。

 ちょっと明るくて座れる場所を探して、あたしと良一は体育館のほうへ歩いた。校庭に面した横扉のコンクリートの階段が、オレンジっぽい色味の外灯に照らされて、ぼうっと明るくなっている。
 あたしと良一は階段に腰掛けた。別々の段の、少し離れた場所だ。夜風が通り過ぎても、体温や匂いを感じることがない距離。それでいて、外灯の頼りない明かりの中でも、お互いの表情がわかる距離。

 ギターケースを横たえたそばに、石英が丁寧な列を作っていた。石英は水晶のカケラだ。校庭の砂に交じって落ちている。あたしが大近島の小学校で過ごした一年生のころ、校庭の石英を集めて並べるのが流行っていた。

 校庭を見やれば、いちばん近くに鉄棒がある。その向こうに滑り台。それから、登り棒、雲梯、ブランコ、砂場。二百メートルトラックも、この暗さでも、うっすらと形が見分けられる。朝礼台や旗の掲揚台もある。あって当然のものが、ちゃんとある。