短くて深い眠りだった。夢は見なかったと思う。
 眠りは、訪れたときと同じく、いきなり破られた。いきなり勘付いたんだ。至近距離に誰かの気配がある。呼吸のリズムが狂って、体がビクッと跳ねた。
 あたしは目を開けた。すぐそこに良一がいた。薄暗い部屋の中で、ソファみたいな布団に体を預けるあたしを、良一は体をかがめて見下ろしている。

 良一がハッと呑んだ息の、喉にかすれて起こるかすかな声。カーテンが開けっぱなしの窓から差す光を映して、良一の両目が鋭くキラッとした。良一の手は、あたしの肩のほうへ伸ばされようとしている。

 あたしは反射的に良一の手を振り払った。ぱしん。硬いものを打つ感触と、手首の傷が引きつるピリッとした痛み。
 良一が、打たれた手を引っ込めて、視線をさまよわせた。

「ご、ごめん」
「何見てんの? 何か用?」
「ごめん。あの、そ、そろそろ夕食だって。せっかく眠ったところ、起こしちゃって悪いけど。えっと」
「わかった。そこ、どいて」

「え、あ……ごめん」
「謝りすぎ」
「……ごめん」
「だから」

「結羽はクールすぎるよ」
「ほかにどんな反応があるわけ?」
「わからないけど」
「そこ、どいてってば」

 良一は、立ち上がりながら、かぶりを振った。サラサラの髪が揺れた。
「どうしよう。苦しい」
「何が?」
「おれ、中学からずっと男子校だし、たいていの仕事の現場にも同世代の女の子はいない。女の子の前でどうすればいいか、全然わからない」

 女の子、というふわふわしたくくり方をされて、噛み合わない何かを感じた。あたしは、「女の子」とは違う生き物だ。男でもないけれど、大人とも子どもとも分類できないけれど、少なくとも、「女の子」と名付けられたスイーツみたいな生き物ではない。

 あたしは起き上がった。黙ってしまった良一の背中を追って、食卓の部屋へと移動する。配膳の手伝いをしようとしたら、里穂さんから、傷の手当てを先にするよう言われた。食卓のそばに救急箱が出してある。

 傷口に薬を塗って、ガーゼを当てる。ガーゼをテープで止めても、汗のせいで、はがれてしまいそうだった。包帯を巻こうとして、うまくいかずに悪戦苦闘していたら、黙ったままの良一が手を貸してくれた。

「ありがと」
 お礼を言うと、良一は目を見張って、うつむいた。口元が笑っているのが見えた。どうしてわざわざ笑顔を隠したんだろう?