良一は、学校と仕事の両立を絶対に目標に、仕事の量や種類を抑えているという話。仕事のために学校を休むことはしないと、今の家族と約束をした。卒業後は仕事一本にする予定だ。
「もし大学に行きたいと思うなら、何歳になってからでも行けると考えてて。幸い、仕事をまじめにやってれば、将来の学費もためられそうなんだ。だから、仕事のチャンスのある今は、進学は考えてない」
明日実は生徒会に入っているらしい。中学時代には生徒会長を務めていたそうだ。家の仕事も部活も生徒会も頑張って、彼氏もいるなんて、並大抵じゃないと思う。しかも、あたしや良一の動画もチェックしている。
「うちとしては、小学校のころからずっと同じペースで動きよるだけのつもりやけどね。真節小って、人数が少なかけん、一人何役もやらんばいけんやったやろ? あれがうちの当たり前のペースになっちょっと」
和弘は成績優秀らしい。高校では、どちらかといえば就職を志望する人が多いクラスにいるくせに、進学組を抑えてダントツにいい。国公立大学を狙えと、先生方から言われているそうだ。
「高校ば出たら仕事するつもりやったけど、勉強は嫌いじゃなかけん、進学も迷うよな。親は、好きにせれって言うし。でも、一回でも外の世界に出たら、おれはここに戻ってこられんっち思う。それはイヤだ。おれは家族の役に立ちたか」
明日実はニコニコしている。
「家の仕事は、うちが継ぐけん、和弘は外に出ればよかたい。せっかく頭よかっちゃけん」
和弘は顔をしかめた。
「ねえちゃんこそ、外に出れよ。スポーツ推薦で入れる大学、あるやろ? 学費も免除になるやつ。おれが普通に受験して普通の奨学金で大学に行くより、ねえちゃんが行くほうが絶対によか」
「うちはあんまり、大学生活とか、興味なか。都会で暮らそうっちも思わん。島の中でやれることが、今、たくさんあるたい。ツバキ油のスキンケアグッズ、自分の手で完成させたかし」
「才津先輩も島に残ると?」
「迷いよる。うちは、好いたごとすればって言いよっけど」
「その言葉さ、才津先輩的には、たぶん、きつかと思う。ねえちゃんは強かけん、わからんかもしれんけど」
「そう? うち、別に強くなかよ。フツーやん。夢とか目標とか、全部ちっちゃくて。結羽や良ちゃんのごた才能もなかし、和弘んごと勉強ば頑張ろうっち思わんやったし。和弘、中学のころ、ほんと頑張ったもんね。高校、よそに出たかったっちゃろ?」
和弘が言葉に詰まった。良一が代わりに答えた。
「本土の高校を目指してみればいいって、おれが言ったんだよ。電話で、和弘から相談受けたとき。和弘が中一のころだよな。中二の結羽と連絡つかなくなったころ。本土の高校に進学したら結羽を探しに行けるかなって、和弘が言ってさ」
「おい、良ちゃん」
「カッコいいって思ったんだよ。あのとき、和弘のこと。掛け値なしに、こいつ、男前だなって。だから、目指してみろよって言ったんだ。十分な力を付けておけば、行くか行かないか、自分で選べるだろ。チャンス、逃さずに済むんだ」
「でも結局、選べるぞって言われよる今、行くか行かんか迷いよったい。カッコ悪か」
和弘は吐き捨てて、コンクリートの上に仰向けになった。あたしは視界の隅で、それを見ていた。
四人全員、別々のほうを向いていた。それでいて、全員が視界の中に入るような、微妙な角度を保ったまま、それぞれの青い色を見ていた。あたしの視界の中心にあるのは、遠い海の深い青。傾きかけた夏の太陽が、波をまばゆく彩っている。
しばらくして、良一が、ため息交じりにつぶやいた。
「海に入って、疲れたな。眠い」
あたしと明日実と和弘が同時にうなずいて、その次の瞬間、四人で同時にあくびをした。
「もし大学に行きたいと思うなら、何歳になってからでも行けると考えてて。幸い、仕事をまじめにやってれば、将来の学費もためられそうなんだ。だから、仕事のチャンスのある今は、進学は考えてない」
明日実は生徒会に入っているらしい。中学時代には生徒会長を務めていたそうだ。家の仕事も部活も生徒会も頑張って、彼氏もいるなんて、並大抵じゃないと思う。しかも、あたしや良一の動画もチェックしている。
「うちとしては、小学校のころからずっと同じペースで動きよるだけのつもりやけどね。真節小って、人数が少なかけん、一人何役もやらんばいけんやったやろ? あれがうちの当たり前のペースになっちょっと」
和弘は成績優秀らしい。高校では、どちらかといえば就職を志望する人が多いクラスにいるくせに、進学組を抑えてダントツにいい。国公立大学を狙えと、先生方から言われているそうだ。
「高校ば出たら仕事するつもりやったけど、勉強は嫌いじゃなかけん、進学も迷うよな。親は、好きにせれって言うし。でも、一回でも外の世界に出たら、おれはここに戻ってこられんっち思う。それはイヤだ。おれは家族の役に立ちたか」
明日実はニコニコしている。
「家の仕事は、うちが継ぐけん、和弘は外に出ればよかたい。せっかく頭よかっちゃけん」
和弘は顔をしかめた。
「ねえちゃんこそ、外に出れよ。スポーツ推薦で入れる大学、あるやろ? 学費も免除になるやつ。おれが普通に受験して普通の奨学金で大学に行くより、ねえちゃんが行くほうが絶対によか」
「うちはあんまり、大学生活とか、興味なか。都会で暮らそうっちも思わん。島の中でやれることが、今、たくさんあるたい。ツバキ油のスキンケアグッズ、自分の手で完成させたかし」
「才津先輩も島に残ると?」
「迷いよる。うちは、好いたごとすればって言いよっけど」
「その言葉さ、才津先輩的には、たぶん、きつかと思う。ねえちゃんは強かけん、わからんかもしれんけど」
「そう? うち、別に強くなかよ。フツーやん。夢とか目標とか、全部ちっちゃくて。結羽や良ちゃんのごた才能もなかし、和弘んごと勉強ば頑張ろうっち思わんやったし。和弘、中学のころ、ほんと頑張ったもんね。高校、よそに出たかったっちゃろ?」
和弘が言葉に詰まった。良一が代わりに答えた。
「本土の高校を目指してみればいいって、おれが言ったんだよ。電話で、和弘から相談受けたとき。和弘が中一のころだよな。中二の結羽と連絡つかなくなったころ。本土の高校に進学したら結羽を探しに行けるかなって、和弘が言ってさ」
「おい、良ちゃん」
「カッコいいって思ったんだよ。あのとき、和弘のこと。掛け値なしに、こいつ、男前だなって。だから、目指してみろよって言ったんだ。十分な力を付けておけば、行くか行かないか、自分で選べるだろ。チャンス、逃さずに済むんだ」
「でも結局、選べるぞって言われよる今、行くか行かんか迷いよったい。カッコ悪か」
和弘は吐き捨てて、コンクリートの上に仰向けになった。あたしは視界の隅で、それを見ていた。
四人全員、別々のほうを向いていた。それでいて、全員が視界の中に入るような、微妙な角度を保ったまま、それぞれの青い色を見ていた。あたしの視界の中心にあるのは、遠い海の深い青。傾きかけた夏の太陽が、波をまばゆく彩っている。
しばらくして、良一が、ため息交じりにつぶやいた。
「海に入って、疲れたな。眠い」
あたしと明日実と和弘が同時にうなずいて、その次の瞬間、四人で同時にあくびをした。