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 蛇口をひねると、冷たい山水が緑色のホースから飛び出した。バス停の裏にある、誰でも使っていい水だ。全身の潮を洗い流す。
 顔を伝い落ちる水から塩辛さが消えて、服がべたつく感じがなくなるまで、しっかり水を浴びた。その後は、タオルがないから、自然乾燥。

 手首の傷も、ちゃんと洗った。和弘の手を借りて、消毒して包帯を巻いていたら、良一と明日実も海から上がってきた。二人とも、あたしの手首のずぶ濡れの包帯に、目を丸くする。

「結羽、ケガでもしたと?」
「ちょっとね」
「消毒した?」
「した。大きなケガじゃないよ」
「それならよかけど。あ、そうだ。髪とか肌とか、このまま乾燥させるだけやったら、荒れてしまうやろ? うちの手作りツバキ油、持ってきちょっけん、使って。うちの自転車のカゴの中にある」

 それは助かる、と良一はニコニコした。せっかくだから、動画や写真にも撮りたいらしい。水を浴びながら、演出のアイディア出しに余念がない。

 少し冷たい海の中で動き続けた体は、ほてっているような寒いような、変な状態だった。帰りの船の時間まで、まだあとしばらくある。あたしたちは防波堤の上で、全身に浴びた水を乾かすことにした。

 バス停のそばには、島全体で五台しかない自販機の一つがある。それぞれに飲み物を買って、明日実のツバキ油を持って、防波堤の突端まで、のろのろと歩く。

 あたしはようやく、そこにパーカーを置き去りにしていたことを思い出した。慌てて羽織る。黒いパーカーは、良一のバッグの陰に入り込んで日が当たらなかったらしく、さほど熱くなってはいなかった。

 パーカーの布地越しに、包帯の手で、肩や二の腕に触れた。引っ掻き回して赤黒くこじれた傷痕が、不規則な模様みたいに残っている。もう痛むことはないけれど、ひどい具合の色をしているのは相変わらずだ。
 きっと見られてしまった。こんな情けないもの、見られたくなかったのに。

 和弘は、サザエの網をひもでくくって、海に吊るした。明日実にツバキ油を勧められても、「いらん」と言う。そんな様子を、良一は楽しそうにカメラで撮った。
 それから、だらだらしながら、いろんな話をした。いや、正確に言えば、良一と明日実と和弘がそれぞれの生活のことを話すのを、あたしは黙って聞いていた。