「結羽ちゃんが最初に投稿した動画、有名なサイトでピックアップされて、視聴者が多かったやろ。ねえちゃんも、そのピックアップのときにたまたま聴いて、結羽ちゃんやっち気付いたと。それで、おれと良ちゃんにも教えてくれた」

 あたしは少し驚いた。
「じゃあ、フォロワーになってたのって、最初から?」
「うん」
「もうちょっと遅い時期だと思ってた」

「最初のうちはコメントせんやったもんな。結羽ちゃんのフォロワーが増えていくとば見ながら、おれ、嬉しかった。でも、少しイヤな気分にもなった。知る人ぞ知る歌い手やったとに、だんだん知っちょっ人が増えてさ。おれの勝手な気持ちやけど」

 その気持ちは、あたしが良一に対していだく気持ちと似ているんだろうか。あいつが遠くに行ってしまう。あいつばかりが羽ばたいている。あたしはまだ、ぬかるみの中から動けずに、歯噛みをしている。それが悔しくて。

 和弘があたしの手首を離した。
「そろそろ、血、止まったやろ」
 和弘の手のひらは、あたしの血で真っ赤に汚れていた。和弘はその手を、海の中に素早く隠した。

「海から上がるの?」
「上がろう。一緒にぞ。結羽ちゃん、傷口、できるだけ海に漬けんごとして。でも、海で切った傷は痕が残りやすかけん、その位置はさ、何ていうか」
「別に、気にしない」
 致命傷にもならない傷が一つ、手首に増えるくらい、大した問題でもない。

 和弘は、網をくっつけたウキをつかんで、防波堤のほうへ泳ぎ出した。チラッと振り返ったのは、あたしが付いてきているかを確認したんだろう。あたしも陸へ向かって泳ぎ出す。和弘がまた前を向く。

「結羽ちゃん、あのさ、ごめん。おれ、謝らんば」
「どうして?」
「海ん中で、結羽ちゃんの腹とか脚とか、すげー白くて、うわって思って、つい見てしまいよった。ごめん。自分でも、自分が気持ち悪かった。ほんと、ごめん」

 あたしは、かすかに胸がざわめくのがわかった。ざわめきの正体はわからなかった。
「正直すぎるんじゃない? 普通、言わないでしょ、そんなこと」
「言わんよな。だいたい、おれ、こんな気持ち悪かやつじゃなかったよな。こういうとこが、自分で自分が変わったっち思うとこで、何か、ごめん」

 謝り続ける和弘に、バカだな、と、あたしは思った。
 変わらない人間なんて、いないんだ。好きじゃない方向に自分が変わっていくのを止められない人間は、たくさんいる。イヤな変化を遂げていることに自分で気付かない人間もたくさんいて、そういう連中より、自分の変化を嘆く人間のほうがマシだ。