海に放り込まれてしまった以上、泳ぐしかない。海中にいれば日焼けもマシだ、と思うしかないか。
 タンクトップの裾が短くて、ショーパンに入れられない。ひらひらしている。でもまあ、あたしたちのほかには誰もいないし、許容範囲ということにしておく。

 あたしは体を折って、頭から海に突っ込んだ。両腕で、平泳ぎのストロークを一回。全身がしっかり波の下に入ったら、足ヒレを付けた脚で水を蹴る。ぐんっと体が海底に近付く。
 両耳に軽い圧迫感があるけれど、大したことでもない。あたしは鼓膜が強いらしくて、水圧にやられて頭痛がすることもなく、平気で潜っていられる。

 海の水は青くない。透明だ。
 防波堤から見下ろすときの水の色は、海底の色をそのまま透かしている。ゆらゆらする波の下を、魚が泳ぐ。
 水に潜って海底から見上げれば、波の天井に夏の光が広がっている。海の中は澄んでいて、少し暗い。

 海底の岩に近付く。岩と岩の間に、いる。トゲトゲした形の、大きなサザエ。
 あたしは手を伸ばして、サザエをつかんだ。サザエは吸盤でくっついているから、岩からはがすとき、ちょっとした抵抗感がある。
 収穫したサザエを手に、あたしは海面を目指した。空気のある場所に出て、呼吸をする。首筋でトクトクと脈を打つ音が聞こえる。

「結羽ちゃん」
 呼ばれて振り返ると、和弘がこっちに泳いでくるところだった。和弘は、手にした網を掲げてみせた。あたしは和弘に近付いて、網にサザエを入れる。和弘は網の口を閉めて、引き寄せたウキに、網から伸びた紐をくくり付けた。

「やっぱ、結羽ちゃんのほうが、ねえちゃんよりサザエ採りが上手やな。さっき、学校探検のときに良ちゃんも言いよったけど、結羽ちゃん、観察力がすごかもん」
「目がいいっていうのは、昔からよく言われる。単純な視力の話じゃなくてね。それに、泳ぎは、小さいころ、スイミングスクールに行ってたから」
「そうやった、習いよったって言いよったよな。ねえちゃんは基本的に泳ぎが下手やけん、どげんしようもなか」

 和弘は、明日実が聞いたらぶん殴りそうなことを平然と言って、ニマッと笑った。

 明日実は、防波堤からあまり離れないあたりで、せわしなく潜ったり上がったりしている。陸上のスポーツでは勝てないけれど、水中ではあたしのほうがずっと強い。獲物を入れる網の都合もあって、良一も明日実の近くでバシャバシャやっている。