たぶんだけど、良一の考えていることが、あたしにはわかる気がする。小学生のころ、明日実は良一のことを好きだった。あたしも良一自身も感じ取れるくらいに、明日実の気持ちはハッキリしていた。
だから、明日実が良一の前で何のためらいもなく今の彼氏の話を始めたことに、あたしは驚いた。良一の驚きも、同じ種類のものだと思う。和弘が気まずそうに黙ってしまった理由も、きっと同じ。
あたしのほうがおかしいんだろう。
フツーだったら、嬉々として、あたしの今カレはねって、明日実と一緒に恋バナに興じるものだ。小学校のころなんて、ずっと昔のできごと。中学で彼氏ができなかったなんて言ったら、ヤバすぎとかって、ウケたりして。
そんなふうにできればよかったのかな。でも、フツーのふりをしようとしても、すぐにボロが出る。
だいたい、ここにいる三人とも、あたしと実際に会って話すまでもなく、知っていたんだろうし。あたしがフツーの世界からこぼれ落ちてしまったことを。
遠くで防災無線のスピーカーが音楽を流し始めた。正午を告げる「エーデルワイス」が山々に反響する。
防波堤の上では、聞こえる音量は小さいし、音割れしている。初めて聴く人は、これが「エーデルワイス」だと気付かないだろう。
良一は青空を仰いで、そこに唄の姿があるかのように微笑んだ。
「この音、この曲、なつかしいな」
和弘が、ひょいと立ち上がった。
「なあ、良ちゃん。時間はたっぷりあるし、泳がん?」
「え、泳いでいいの?」
泳ぐというのは、海水浴をするという意味じゃない。潜って獲物を採ることだ。小近島の夏を経験して以来、あたしは海水浴という言葉の意味がわからなくなってしまった。それくらい、小近島の海で泳ぐことは、楽しくて刺激的だった。
和弘は昼ごはんのゴミをまとめながら言った。
「泳いでよかっち、とうさんの許可、もらってきた。潮は微妙やけど、獲物がおらんことはなかやろ。このへん、一昨年から泳いじょらんけん、サザエやミナが採れるっち思う」
陸上の土地と同じように、陸寄りの海にも管理者がいる。管理者の許可なしには、泳いで貝や海藻を採ってはならない。このあたりの瀬の管理者は、明日実と和弘のおとうさんだ。
だから、明日実が良一の前で何のためらいもなく今の彼氏の話を始めたことに、あたしは驚いた。良一の驚きも、同じ種類のものだと思う。和弘が気まずそうに黙ってしまった理由も、きっと同じ。
あたしのほうがおかしいんだろう。
フツーだったら、嬉々として、あたしの今カレはねって、明日実と一緒に恋バナに興じるものだ。小学校のころなんて、ずっと昔のできごと。中学で彼氏ができなかったなんて言ったら、ヤバすぎとかって、ウケたりして。
そんなふうにできればよかったのかな。でも、フツーのふりをしようとしても、すぐにボロが出る。
だいたい、ここにいる三人とも、あたしと実際に会って話すまでもなく、知っていたんだろうし。あたしがフツーの世界からこぼれ落ちてしまったことを。
遠くで防災無線のスピーカーが音楽を流し始めた。正午を告げる「エーデルワイス」が山々に反響する。
防波堤の上では、聞こえる音量は小さいし、音割れしている。初めて聴く人は、これが「エーデルワイス」だと気付かないだろう。
良一は青空を仰いで、そこに唄の姿があるかのように微笑んだ。
「この音、この曲、なつかしいな」
和弘が、ひょいと立ち上がった。
「なあ、良ちゃん。時間はたっぷりあるし、泳がん?」
「え、泳いでいいの?」
泳ぐというのは、海水浴をするという意味じゃない。潜って獲物を採ることだ。小近島の夏を経験して以来、あたしは海水浴という言葉の意味がわからなくなってしまった。それくらい、小近島の海で泳ぐことは、楽しくて刺激的だった。
和弘は昼ごはんのゴミをまとめながら言った。
「泳いでよかっち、とうさんの許可、もらってきた。潮は微妙やけど、獲物がおらんことはなかやろ。このへん、一昨年から泳いじょらんけん、サザエやミナが採れるっち思う」
陸上の土地と同じように、陸寄りの海にも管理者がいる。管理者の許可なしには、泳いで貝や海藻を採ってはならない。このあたりの瀬の管理者は、明日実と和弘のおとうさんだ。



