あたしは手を引っ込めた。良一は、肌荒れなんか無縁そうな頬のあたりを、するっと撫でた。

「でも、明日実たち、すごいな。授業で特産品を考えたりするんだ。商業科とかじゃなくて、普通科だよな?」
「普通科けど、島やけん、特別。和弘たちは、先輩がやりよったプロジェクトの引き継ぎで、ドローンば島の産業に使えんかなって、考えよる。ね?」

 話を振られた和弘は、皮だけになったスイカをポイとビニール袋に放り込んだ。しかめっ面だ。

「例えば、畑や田んぼで作物がちゃんと育ちよるか、ドローンば使えば、人が見に行くより早かやろ。そんな感じ。あとは、海に流れ着くゴミのチェックとか。ドローンプロジェクトば始めた先輩たちがすごすぎて、プレッシャー、すごかっぞ」

 明日実や和弘の視線につかまる前に、あたしは海のほうを向いた。じくじくと、胸の奥にイヤな感情が湧いてくる。どうせあたしは、と思う。フツーに学校生活を楽しむことすらできない、落ちこぼれみたいなものなんだから。
 明日実があたしの名を呼んだ。

「ねえ、結羽。hoodiekidって、動画、上げるだけ? オーディションとか、受けんと?」
「受けるよ。楽器店が主催するやつ。来週、県予選があって、次が地方予選。九月半ばに全国大会がある。去年は地方予選まで行けたから、今年は支店での予選が免除で、いきなり県のに出られるの。今年は絶対、全国に行きたい」

 参加資格が二十歳未満のオーディションだ。インディーズで活躍する大人を相手にする大会より、ずっとチャンスが大きい。全国大会で賞を獲ったり注目を集めたりして、スポンサーが付けば、メジャーデビューが約束される。

 あたしはチャンスをつかみたい。デビューして胸を張りたい。自信を持って名乗れる自分になりたい。自立して生きていきたい。両親にとっての厄介者じゃなくなりたい。ほら、生きていてよかったじゃないかって、死にたかった自分に言いたい。

 良一が急に言った。
「結羽、そのまま。海のほう見てて」
 その瞬間、スマホのカメラのシャッター音。

「何? 何で撮るの?」
「いや、すごくいい表情だったし、いい絵だなと思ったし。ほら、見てよ。キマってる。このままCDのジャケットになりそう」

 あたしは、スマホの画面を見せようとする良一から、体ごとそっぽを向いた。
「撮られるのは好きじゃないんだけど」
「慣れときなよ。何なら、撮られるコツ、いくつか教えるよ」
「撮られる立場になることも決まってないのに、余計なとこに気を回さなくていい」