Fメジャーから始まる前奏。弾んだ調子で歌う青空の唄《うた》に合わせて、軽快なカッティングで伴奏する。
 あたしと明日実が、なじんだ呼吸で歌い出す。一小節遅れて、輪唱の副旋律。良一と和弘の声を聞き慣れないと思い続けていたけれど、案外高く伸びるその響きに、ハッとする。丁寧に張り上げる声に、幼さの名残が確かにある。

 あの青い空、と歌い上げるとき、良一と和弘の低音が、あたしと明日実を支える。なかなか音がハマらなくて、何度も何度も練習した。良一も和弘も、自分の旋律だけなら歌えるのに、高音がかぶさると、わけがわからなくなって。

 テンポを落として、じっくりお互いの声を聞きながら、呼吸を合わせて、さあ。そんなふうに根気強く練習して、初めてハーモニーが噛み合ったときの感動。これだ、って叫んで飛び跳ねた良一と和弘。あのとき、本当に嬉しかった。

 始まってしまった唄は生き物で、一瞬ごとに終わりに近付いていく。昔、リコーダーで奏でた間奏は、ギターで即興のアレンジを突っ込んだ。再び歌い出して、ああ、夢中になれる時間が、一瞬、また一瞬、過ぎ去っていく。
 ずっと歌っていられたらいいのに。昔みたいなリズムで、呼吸で、ハーモニーで。

 でも、時間は流れていく。唄は終わってしまう。
 一番から四番まで歌い切った。埃っぽい音楽室の匂いが、ふわっと、最後の余韻を静かに呑み込んでいく。

 自然と、四人で顔を見合わせた。全員、汗びっしょりだった。明日実は潤んだ目をしていたけれど、まだ泣いてはいなかった。和弘が我に返った様子で息をついて、カメラを回収に行く。