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 階段を上った先、図工室の真上は音楽室だ。
 真節小の音楽室の楽器は、古くても上等のものばかりだった。閉校にあたって、父が楽器の寄贈先を探していたのを覚えている。そのうちの一つが、あたしのギターだ。面倒な手続きを経て、どうにか許されて、あたしが受け取った。

 寄贈先が決まらなかった楽器もあったはずだ。一つや二つじゃなかった。図書室の本もそう。比較的きれいだった一輪車やバスケットボールも。
 もったいない話だった。でも、ほしいと言う誰かが引き取ることも許されなかった。だって、学校の備品は公共のものだ。勝手に持って帰れば、法律で罰せられる。

 真節小の図書室で出会った大好きな本たちは、きっと、もうこの世に存在しないだろう。校庭にあった遊具、どこに行っちゃったのかな。全部、処分されてしまったんだろうか。思い出だけがたっぷり詰まった、もはや何の役にも立たないゴミとして。

 ふと、和弘があたしの後ろに回って、カメラの画面をのぞき込んだ。
「これ、操作は簡単?」
「見てのとおり。スマホで撮影するのと同じ」
「じゃあ、おれが代わるけん、結羽ちゃん、ギターで何か弾いて。そのギター、ずっとここにあったたい。最後にもう一回、ここで鳴らしてやってよ」

 いいね、と良一が言った。
「おれも和弘と同じこと考えてた。ギターの里帰りだよ。結羽の演奏も映したかったし」
「うん、うちも聴きたかった!」

 あたしは和弘にカメラを渡した。正直なことを言えば、音楽室に入ったとたん、全身がざわめいたんだ。楽器が一つもなくなった、がらんどうな部屋なのに、音楽室だけに満ちる空気の匂いがここにはまだ残っている。
 ギターケースを背中から降ろす。こもっていた熱がほどけて、背中がすーすーした。タンクトップもパーカーも汗で湿っている。

「弾いてもいいけど、泣かないでよ」
 ケースからギターを取り出す。ストラップを左肩に掛けて、ざっとチューニングを済ませる。
 和弘があたしにカメラを向けている。明日実はカメラのラインを避けて、横からあたしの手元をのぞき込んだ。

「結羽、何ば弾くと?」
「あの青い空のように」
 良一も明日実も和弘も、ああ、と息をついた。