廊下を歩いていく。生活科室の隣が図書室、その隣には会議室。そこにあったはずの机も椅子もカーテンもなくなって、窓ガラスは白く汚れてくすんでいる。天井にクモの巣が張っている。
 職員玄関に置かれていた水槽は、もちろんもうない。キラキラ輝くメダカが飼われていたけれど、あの子たちはどこに行ったんだろう?

 小学生用のトイレをのぞいて、サイズが小さいことに驚いた。それから、その隣の大人用のトイレをのぞく。和弘がニヤッとした。
「職員トイレ、初めて入る」

 良一と明日実も、ただのトイレなのに、妙に楽しそうにニマニマ笑って、職員トイレの中に入った。掃除用具入れは空っぽで、水のない便器がひび割れている。
 これ、撮影しちゃっていいのかな? まあ、編集する人がいるっていう話だったから、あたしが気にすることでもないか。
 トイレというものにおもしろセンサーを反応させる小学生みたいな良一にカメラを向けながら、あたしは言った。

「あたし、夏休みに、職員トイレの掃除したことあるよ。使わせてもらったついでに」
 明日実が目を丸くした。
「わざわざ職員トイレば使ったと? 何で普通のトイレ使わんやったと?」
「だって……トイレっていう場所、苦手だったし。真節小にはなぜか学校の怪談がなかったけど、前の学校では、トイレは怪談の宝庫だった」

 昔はそういうのが苦手だった。ほかにも、理科室に近いほうの階段は、二階と三階の間の階段が十一段と十三段に分かれていて、十三階段にならないようにいつも一段ぶん飛ばして歩いていた。

 和弘が含み笑いをした。
「結羽ちゃんがそげんこと言うっち想像しちょらんやった。かわいかところ、あるやんな」
「年下のくせに生意気」
「小学校時代の一歳差とか、ノーカウントやろ。生まれ年でいったら、同い年やし」
「カウントし直せ、バカ」