理科室を出て、児童玄関の前を過ぎると、空き教室を贅沢に使った生活科室がある。その向かい側の屋外には、給食室と名付けられた小屋が、まだ当時のままで残されていた。

「給食室、あったなー。おれ、実はあの給食のせいで、いまだにパンが苦手なんだよ」
「良一も? あたしも和弘も同じさね。結羽は?」
「パン、食べない」

 給食とは名ばかりのそれは、大近島から届けられるパンと牛乳だった。あたしたちは、おかずだけの弁当を学校に持っていっていた。牛乳はともかく、パンはちょっと、ハッキリ言って、おいしくなかった。当時は文句も言わず、残さず食べていたけれど。

 良一が気を取り直すように言った。
「でも、火曜日は少し楽しみだった。牛乳に入れるパウダーが付いてたろ?」

 あったあった、と明日実がうなずく。
「ココアパウダーとコーヒーパウダーが、週替わりで交代に付いてきよったね。牛乳パックば開けて、粉ば入れて、ストローで掻き混ぜて飲むやつ」

 和弘が顔をしかめた。
「でも、あの粉、あんまし牛乳に溶けんかった」
「和弘はよく、袋を開けるのに失敗して、粉をぶちまけてた」
「良ちゃん、変なこと覚えちょっとやな。意地悪ぞ」
「ごめんごめん。火曜がパウダーの日だったのは覚えてるんだ。別の日は、何かジャムが付いてた気がする」

 給食のメニューを、三人は「うーん」とうなりながら思い出そうとする。あたしは全部、覚えている。

「月曜がたまごパン、火曜が黒砂糖パン、水曜が食パン、木曜がはちみつパン、金曜がコッペパンで、たまにパインパン。火曜は牛乳のパウダーが付いてて、水曜はジャムが付いてた」

 ほー、と、三人とも同時にフクロウみたいな声を上げた。良一はあたしのほうをまっすぐ向いて、つまり真正面からのカメラ目線で、あたしに言った。

「結羽、さっきから感じてたんだけど、記憶力いいな」
「給食のパンや牛乳が余る日は、父が持って帰ってきてた。そういうのもあって、覚えてるだけ」
「それでもだよ。おれだって、真節小のころの暮らしはものすごく印象深くて、毎日毎日、できるだけたくさん覚えておこうって日記もつけてたんだけど」

「三行日記でしょ。宿題っていう名前の課題が出ない代わりに、毎日やる約束になってたもののうちの一つ。漢字の書き取りを一ページと、算数のドリルを一ページと、十五分以上の読書と、三行日記」

「それだ。おれは三行で満足してたんだけど、結羽はときどき、ものすごい長文を書いてたよな。どうやったらそんなに書けるのか、不思議でたまらなかったんだけど、今わかったよ。見てる場所が違う。見ようとするものの深さが違う」

「別に。あたしにとっては、これが普通だから」
 見え過ぎる目なんて、ないほうが楽だったんじゃないか。そう気付いてしまったら、自分という生き物へのうとましさが、いっそう増した。自分で自分の首を絞めてばかりだ。そんな自分が面倒くさくて、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。