あたしの動画は、視聴者の数の割にコメントが少ない。あたしが丁寧にコメント返しをするタイプじゃないから、配信者と絡むのを楽しみたい人っていうのは、どっか行っちゃうんだ。黙って音楽を聴きたいだけの人が、ポツポツ残ってくれている。
 二回以上コメントを入れてくれた人のハンドルネームは、全部覚えている。この人、初めて来たなっていうのも、もちろん見分けられる。

 昨日アップした動画に付いたコメントの一つは、初めて来た人からのものだった。

〈no name|このパーカーの人、生で見たことあるわ。ケーサツに見張られてたw〉

 最悪。もちろん、同じ高校の人とか同じ中学だった人とかが、あたしの動画を観る可能性があるって、そんなことくらいわかっているけれど。
 ほかに、見知ったハンドルネームからのコメント。三人から、一言ずつ。

〈いむさ|やっぱり声きれいやね!〉
〈KzH|いつも後ろに猫いるw なつかれてるっていうか、猫同士かw〉
〈lostman|新曲まだ途中なのか。いつフルで公開する?〉

 返信すればいいんだろうか。会話をしちゃっていいんだろうか。彼らは、あたしと話したいんだろうか。
 チラッと、そんなことを考える。でも、あたしは誰とも話さない。

 疲れたんだよ。あたしの言葉は、唄《うた》を紡ぐためだけにある。そう割り切ってしまったほうがいい。生き続けるための手段として、割り切ろうと決めたんだ。
 歌うのも話すのも全部うまくやろうだなんて、そんなくたびれること続けていたら、あたしはまたバラバラに壊れてしまう。

 あたしはフードをかぶった。視界が半分、暗くなる。吹き付ける潮風が、フードをはじき飛ばそうとする。あたしはうつむいて、フードの端っこをギュッとつまんで、潮風と太陽の光に抵抗した。
 唄を口ずさむ。取り留めもなく作りかけの、まだタイトルもない、出口の見えない唄を。


night night night
また始まってしまう今日
まだ飛び立てない my blue nights

落ち着く場所は夜の中
いつの間にか闇がトモダチ
深くかぶったフードの下
滅びてしまえ 全部 全部

キライ キライ キライ
僕の内側にいる宇宙
僕の外側にある世界
クライ クライ クライ
目を開けて見る夢の途中
目を閉ざした痛いリアル

精一杯 ネジを巻いて
歌う喉が 走る足が
止まらないように
まだ終わっちゃダメなんだろう?