和弘が淡々と言った。
「校舎ば解体するための重機は、もうすぐ、本土からの特別の船便で到着する。十時に工事開始の予定で、始まったら、何ヶ月もの間、校庭には入れんごとなる。おれ、たまにここで走りよったとけどな」

 良一がチラッと腕時計を見た。
「お別れのセレモニーは、九時半に校庭に集合だよね。それまでは、校舎の中を見て回っていい」

 明日実と和弘は同時にうなずいた。明日実が口を開く。
「鍵はもう開けてもらっちょっよ。昨日は、うちのいとこたちが校舎探検しよった。うちと和弘も誘われたけど、断ったと。うちらは結羽や良ちゃんが一緒じゃなからんばねって」

 校庭に入ってすぐのところで、明日実と和弘は、押していた自転車のスタンドを立てた。良一は、カメラをバッグから取り出した。

「さて、そろそろ撮影開始だな。校舎を探検する間はおれも画面に入りたいから、誰かにカメラをお願いしたいんだけど」
 あたしは小さく右手を挙げた。
「さっきも言ったじゃん。あたしが映すってば」
 良一は肩をすくめた。
「それじゃ、お願いする。でも、結羽もちょっとは映ってほしいな」

 あたしはカメラを受け取った。予想していたより重い。画面は夏の日差しに照らされて、見づらかった。カメラの上に手のひらをかざしてひさしを作って、照準を良一に合わせ、撮影開始のボタンを押す。

 ふっと、熱い潮風が吹いた。良一はハットを軽く押さえて、遊具のなくなった校庭を見渡した。
「何もなくなってるんだね」
 改めてつぶやいた良一に、明日実が応えた。

「遊具が撤去されたとは、けっこう前やったよ。それからね、木、花壇、温度計、池、うさぎ小屋、鶏小屋……全部、どんどんなくなっていった。学校から帰ってきたら、朝にはあったはずのものが消えちょっと。何か寂しかったな」

 話す明日実に、あたしはカメラを向けていた。画面の中に良一が入ってきて、明日実を紹介する。ついでに和弘も引っ張り込んで、紹介する。
 画面越しだと、ずいぶん楽だ。良一たちと、平気で目を合わせていられる。
 良一と明日実と和弘は、三人並んで、校庭を突っ切っていく。その後ろ姿にカメラを向けながら、少し離れて、あたしが追い掛ける。