話をするうち、あっという間に、渡海船は小近島の船着き場に到着した。タラップを踏んで、浮桟橋に降り立つ。何艘かの漁船が停泊した船着き場は、さびた鉄と海藻と機械油と腐った木の匂いが、潮の匂いに混じっている。

 変わってない。
 コンクリートの小箱みたいな待合所。天然の良港といわれる、波の穏やかな湾。ひしゃげたような格好の古い家々。山肌を切り開いた段々畑。わーしわーしと降ってくるセミの声。
 海岸線は入り組んだ形で、県道は海岸線沿いにうねうねしている。県道の海側にはコンクリートの防波堤があって、反対側には山が迫っている。

 島の裏側の集落へと続く峠道の途中にあるのが、小近島教会と慈愛院だ。山を上らずに海岸線沿いを進んでいくと、あのカーブの向こうにあるのが、真節小学校。

 良一が、吐息のように言った。
「なつかしいな」
 カメラが、ゆっくりと、小近島の風景を映している。

 坂を下りてくる人がいる。自転車に乗って、二人連れで。目を凝らせば、明日実と和弘だと、すぐにわかる。自転車は、前にも後ろにも大きなカゴを付けたもので、明日実と和弘はたびたび、獲れすぎた魚をあのカゴに積んで島の人々に配っていた。

 あたしと良一は浮桟橋を離れて、県道に出た。真節小のほうへ歩き始めたとき、自転車の二人があたしと良一に合流した。明日実と和弘は、自転車から飛び降りた。

「うっわー、結羽も良一も、久しぶり! わぁぁ、何か、二人とも大人っぽくなっちょる!」

 はしゃぐ明日実の声は、昔のままだ。でも、明日実のほうこそ大人っぽい体つきになっている。
 日に焼けた肌と短い髪、大きな目。家の仕事で鍛えられているせいか、もともとの体質なのか、腕も脚も筋肉質だ。それでいて胸もしっかりあって、見るからに弾力がありそうで。野生動物みたいにしなやかな体だ。きれいだなと思った。

 一つ年下の和弘が、聞いたことのない低い声で「うっす」と言った。
「結羽ちゃん、良ちゃん、長旅、疲れたろ? 昨日は泊めてやれんで、ごめんね。いとこば泊めるスペースしかなくて。それもギリギリやったけど。ぎゅうぎゅう詰めで雑魚寝したっぞ」

 小学生のころは背が低くて、あたしの肩までしかなかった和弘が、あたしと同じくらいの背の高さになっている。いや、たぶん、あたしより少し高い。