あたしは良一に背を向けた。船のエンジン音に掻き消されないように、声を張り上げる。

「だからって、RYO-ICHIの動画に本人が登場しないのは本末転倒でしょ」
「学校探検のときは、誰かに撮影を任せるよ」
「じゃあ、あたしが撮る。映りたくないし」
「映りたくないって、覆面なしで動画配信してる人のせりふとは思えないな」
「歌う動画とこういうタイプのと、全然違うじゃん」

「結羽、ちょっとこっち向いてよ」
「うるさい。カメラ近すぎ」
「近寄らなきゃ、マイクに声を拾えないよ。渡海船のエンジン音は、後で編集して抑えるつもりだけど」

 近すぎるってば。こんな距離で撮るのは、たぶんよくない。純真無垢な島育ちの美少年RYO-ICHIのファンからすれば、この近さはあり得ないと思う。これが配信されたら、あたし、RYO-ICHIのファンに刺されるんじゃないだろうか。

 いや、そういうことをいちいち心配するのって、うぬぼれかな。女の子らしい女の子ってわけでもないんだし。ハンドルネームだって、最初から「キッド」って呼ばれたんだ。「ガール」じゃなくて。

 今日のあたしは、黒いパーカーに白いタンクトップ、ジーンズ地のショーパンっていう格好。こんな感じがあたしの普段着だけど、そういえば、プロである良一の目にはどう映っているんだろう?

「結羽、髪が伸びたよな。染めてる?」
「そんなわけないじゃん。短かったら目立たないけど、地毛が茶髪なの」

 伸ばしたいんじゃなくて、髪を切りに行くのがイヤなだけ。伸びすぎないように、自分で適当にハサミを入れているから、肩甲骨に触れるあたりの毛先はギザギザに歪んでいる。