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 小近島に住んでいたころ、母が毎朝、船で大近島に通勤していたように、大近島から小近島へ通勤してくる人もいた。真節小の低学年の先生がそうだったし、郵便局員は全員そうだった。明日実のところの養殖場にも、岡浦から通ってくる人たちがいた。

 朝、彼らの出勤に合わせて、岡浦の船着き場から渡海船が出る。この時刻に岡浦からの便に乗るのは初めてだったと、あたしは船の上で気が付いた。

 あたしの隣で、良一は、遠ざかっていく岡浦と近付いてくる小近島を撮影している。今日の良一のファッションは、Tシャツとハーフパンツ、スニーカー、頭には中折れハット。全部、白っぽいアースカラーだ。

 あたしには、そういう色は似合わない。ふやけた印象にはなってしまう。淡い色っていうのが、どうしても似合わないんだ。柔らかい色のほうが、本当は好きなんだけど。
 良一のカメラは、ギターを背負ってフードをかぶったあたしにも向けられる。

「何でこっち映すの?」
「このクールで不機嫌な女の子は、ぼくの同級生のうちの一人です。同級生といっても、ぼくを含めてたった四人しかいません。三人が同じ学年で、一人が一つ年下。ぼくたちの学校は小さかったから、四人で一つの学級でした」

 カメラに接続した小さなマイクが、良一の口元にある。吹き込まれるナレーションの一人称が、ぼくになっている。仕事モードらしい。今日一日、良一はずっとカメラを回し続ける予定だ。

「あんたが映ってなきゃ意味ないんじゃない?」
「hoodiekidがRYO-ICHIの動画に映ってるのも、それはそれでおもしろいと思うけど」
「事務所の人からNG出る気がする」
「その心配はありません。だいぶ前から、マネージャーにもhoodiekidが同級生だって話はしてあって、今回も共演して問題ないって言ってもらってる」