「でも、結羽は、歌うことを自己満足で終わらせたくないんだろ? 家に閉じこもってるんじゃなくて、外に出て弾くのは、発信したいからなんだろ? 一人で好き勝手に弾くだけじゃ、イヤなんだろ? hoodiekidの動画だって」
その瞬間、ピンときた。
「lostman《ロストマン》って、あんた?」
いつもコメントを入れる、本名も顔もわからない誰かのうちの一人だ。ほかのフォロワーとは、コメントの印象がいつもちょっと違う。「この先は?」「この次は?」って訊いてくるんだ。
良一は、髪をザッと掻き上げた。
「そうだよ。そういうのを知るのがイヤだったら、ごめん」
「別に」
「モデルとして事務所に入ってさ、おれのキャラなら自分で動画配信しても大丈夫って言われて、撮ってみることにして、勉強のためにいろんな人の動画を観たんだ。そのとき、ある人が真っ先に教えてくれたのが、hoodiekidだった。結羽だからって」
「参考にもならないでしょ。フォロワーの数だって、あんたが目指すところに比べたら、全然多くないし」
「参考にしてるってば。おれは、ちょっとズルしてるよ。動画は、撮るとこだけ自分でやって、編集は人に任せてる。事務所のチェックを通さなきゃいけないって事情もあるけどさ。結羽は全部、一人でやってるだろ。パソコン、使えるんだな」
パソコンには小学生のころから触れていた。両親が、お下がりのパソコンをくれたんだ。このご時世、いつか必ずパソコンを使うことになるからって。タイピングもそのころに覚えた。スマホのフリップよりキーボードのほうが、あたしは入力が速い。
「難しい編集はしてないよ。雑音を消して、動画の長さの調整をして、明るさや色調をいじって、必要なとこにテロップ入れたり、歌詞を書き込んだり、写真を挿入したり。まあ、それなりに手間はかかってるけど、難しくはない」
「歌ってるシーンが、たまに白黒アニメに切り替わるだろ。あと、漫画のコマ割りみたいに、写真を散りばめていくアニメとか。ああいう演出の動画も自分で作ってるの?」
「スマホアプリだよ。両方とも。動画や画像を流し込むだけで、アニメ風に加工できるアプリがあるの。光のバランスとか、条件がそろわないと、きれいなアニメにならないけど」
「あ、そうなんだ。あの演出、すごいカッコいいと思ってたんだけど、スマホアプリ?」
「文字入れでも、アプリ使うことあるよ。スマホでやるほうが、パソコンよりお手軽だし」
「頭いいんだよな、結羽は。飲み込みが早くて、発想が柔らかくて。おれは、そういうんじゃないから。仕事も、覚えることだらけで必死だよ。そんなにスケジュール詰まってるほうでもないけど、それでも必死」
そう、と応える。じくじくと胸が痛むのは、嫉妬だ。
良一は仕事をしている。モデルという、表現活動の仕事。音楽とは違うにしても、自分の内側にあるものを自分だけの方法で表現するっていう、そのチャンスを持つことを社会から認められている。発信するチカラがある。
うらやましくて仕方ない。ねたましいくらいに。
その瞬間、ピンときた。
「lostman《ロストマン》って、あんた?」
いつもコメントを入れる、本名も顔もわからない誰かのうちの一人だ。ほかのフォロワーとは、コメントの印象がいつもちょっと違う。「この先は?」「この次は?」って訊いてくるんだ。
良一は、髪をザッと掻き上げた。
「そうだよ。そういうのを知るのがイヤだったら、ごめん」
「別に」
「モデルとして事務所に入ってさ、おれのキャラなら自分で動画配信しても大丈夫って言われて、撮ってみることにして、勉強のためにいろんな人の動画を観たんだ。そのとき、ある人が真っ先に教えてくれたのが、hoodiekidだった。結羽だからって」
「参考にもならないでしょ。フォロワーの数だって、あんたが目指すところに比べたら、全然多くないし」
「参考にしてるってば。おれは、ちょっとズルしてるよ。動画は、撮るとこだけ自分でやって、編集は人に任せてる。事務所のチェックを通さなきゃいけないって事情もあるけどさ。結羽は全部、一人でやってるだろ。パソコン、使えるんだな」
パソコンには小学生のころから触れていた。両親が、お下がりのパソコンをくれたんだ。このご時世、いつか必ずパソコンを使うことになるからって。タイピングもそのころに覚えた。スマホのフリップよりキーボードのほうが、あたしは入力が速い。
「難しい編集はしてないよ。雑音を消して、動画の長さの調整をして、明るさや色調をいじって、必要なとこにテロップ入れたり、歌詞を書き込んだり、写真を挿入したり。まあ、それなりに手間はかかってるけど、難しくはない」
「歌ってるシーンが、たまに白黒アニメに切り替わるだろ。あと、漫画のコマ割りみたいに、写真を散りばめていくアニメとか。ああいう演出の動画も自分で作ってるの?」
「スマホアプリだよ。両方とも。動画や画像を流し込むだけで、アニメ風に加工できるアプリがあるの。光のバランスとか、条件がそろわないと、きれいなアニメにならないけど」
「あ、そうなんだ。あの演出、すごいカッコいいと思ってたんだけど、スマホアプリ?」
「文字入れでも、アプリ使うことあるよ。スマホでやるほうが、パソコンよりお手軽だし」
「頭いいんだよな、結羽は。飲み込みが早くて、発想が柔らかくて。おれは、そういうんじゃないから。仕事も、覚えることだらけで必死だよ。そんなにスケジュール詰まってるほうでもないけど、それでも必死」
そう、と応える。じくじくと胸が痛むのは、嫉妬だ。
良一は仕事をしている。モデルという、表現活動の仕事。音楽とは違うにしても、自分の内側にあるものを自分だけの方法で表現するっていう、そのチャンスを持つことを社会から認められている。発信するチカラがある。
うらやましくて仕方ない。ねたましいくらいに。