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 昼ごはんが済むと、夏井先生は、岡浦小に出勤していった。七月三十一日。子どもたちは夏休みでも、先生たちには規定の出勤日数がある。当直もある。授業がないうちに作成しておきたい文書や資料もある。

 里穂さんが皿洗いをする間、きれいに拭き上げたテーブルの前で、あたしと良一はそれぞれのスマホを手に、別々の世界に入り込んでいる。と思ったら、良一が急に、小さな声を立てて笑い出した。

「斜め後ろ、頭らへんに視線感じない? ずーっと見ちょったとけど」
「全然。用があるなら、普通に声掛ければ?」
 あたしの視界の隅で、良一は肩をすくめた。
「まあ、確かにね。結羽、教頭先生は、明日は来られんと?」

「来ないよ。平日じゃん。そうじゃなくても、お盆休みの期間でも、学校のそばから動けない」
「え、学校の先生って、そんなに忙しかと? 夏休みなのに」
「うちの父の場合、夏休みはないよ。普段の土日だって、校長先生が在宅のときじゃないと、遠出もできない。学校で何かあったときのためと、出勤する先生方がいる場合、鍵の管理をしないといけないから」
「そっか」

 会話が途切れる。あたしはまた、スマホに視線を落とす。
 hoodiekidの動画に、新着通知あり。ほんの今しがただ。lostmanからのコメントで、急に思い付いたんだけどさ、っていう提案。

〈lostman|普段と違う場所で歌ったりしないの? 景色のいい場所とか。天気いいときの海のそばなんて、似合いそうなロケーションだと思うけど〉

 何をどう考えたら、あたしに海が似合うなんていう発想になるんだろう? hoodiekidとしてのあたしは、いつも暗い公園で、顔もろくに見せずに歌っている。海を歌った唄も、あるにはあるけれど、あれは真夏の明るい海の情景ではないし。